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若年性アルツハイマーとは?早期発見方法や対策について解説

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画像素材:PIXTA

国内外の映画やドラマ・小説などでは「若年性アルツハイマー」がテーマとして取り上げられることは少なくありません。そのため若年性アルツハイマーという病名を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

一方で、「具体的にどのような病気なのか」「通常のアルツハイマー病と何が違うのか」といった基本的な知識については、まだ十分には浸透していません。

今回は、若年性アルツハイマーについての定義や症状、さらに早期発見方法や日常でできる対策までを解説します。

若年性アルツハイマーとは

「若年性アルツハイマー」とは、65歳未満(18歳~64歳)でアルツハイマー病を発症した場合、診断時に用いられる呼称です。

アルツハイマー病は、記憶力や判断力といった認知機能が徐々に低下して日常生活に支障をきたす進行性の病気ですが、多くの場合は高齢者の病気として認識されており、若い世代で発症するケースはあまり知られていません。

しかし、実際には働き盛りの世代においても発症する可能性があり、本人はもちろん、家族や職場など周囲にも大きな影響を及ぼす病気です。

若年性アルツハイマーと若年性認知症の違い

「若年性認知症」とは、18歳~64歳までの間に発症するすべての認知症を指す総称です。そのなかには、アルツハイマー病のほか、脳血管性認知症・前頭側頭型認知症・レビー小体型認知症やアルコール関連による認知症など、多様なタイプが含まれます。

若年性認知症の発症年齢は平均54歳前後で、40代〜50代の働き盛りに多くみられます。

2020年の調査では、若年性認知症と診断された人のうち約50%を若年性アルツハイマーが占めており、もっとも多いタイプとされています。

若年性アルツハイマーと一般的なアルツハイマー病の違い

若年性アルツハイマーと一般的なアルツハイマー病の最大の違いは発症年齢です。

前述の通り、65歳未満(18歳~64歳)でアルツハイマー病を発症すると若年性アルツハイマーと診断され、それ以上の年齢で発症した場合は通常のアルツハイマー病として扱われます。

一方で、病理的なメカニズムに大きな違いはありません。いずれのケースにおいても、原因物質とされている異常なたんぱく質である「アミロイドβ」と「タウたんぱく」が過剰に蓄積することで神経細胞に障害を引き起こし、最終的には神経細胞が死滅して脳の萎縮へとつながります。これにより記憶力や判断力、理解力といった認知機能が徐々に低下し、身体機能や日常生活にも支障をきたすようになります。

アルツハイマー病は進行性のため、病変した脳や失われた機能を元の状態に戻す治療法は、現時点では確立されていません。

若年性アルツハイマーの症状

若年性アルツハイマーは、初期・中期・進行期と段階的に症状が進行していきます。ここでは、それぞれの段階であらわれやすい代表的な症状を紹介します。

初期の症状

もっとも早い段階では、「記憶障害」が目立つようになります。たとえば、「さっき食べた昼食のメニューを思い出せない」「同じことを何度も聞いてくる」「物の置き忘れが頻繁になる」など、日常的なもの忘れが増えてきます。ただし、これらの変化は疲労やストレスによるものと見分けがつきにくく、本人も周囲も気づきにくいため見過ごされることが少なくありません。

中期の症状

症状が進行すると、「実行機能・遂行機能障害」があらわれます。これは、計画を立てたり、ものごとの順序を整理したりする能力が弱くなる症状です。たとえば、「慣れていた料理の手順がわからなくなる」「仕事での段取りが組めなくなる」などの変化がみられます。

また、日付や時間、自分が今いる場所がわからなくなる「見当識障害」もあらわれるようになり、人や物の名前や言葉が思い出せなくなるため、「あれ」「それ」などの代名詞で済ませてしまうことが多くなります。

進行期の症状

さらに症状が進行していくと、発声や嚥下が困難になることや歩行困難などの身体機能にも影響が出るようになります。ここまで進行すると、日常生活で常に介助が必要となるケースも多く、本人の生活だけでなく介護する家族や周囲への負担も大きくなります。

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見逃されやすい若年性アルツハイマーの初期症状

若年性アルツハイマーは、40〜50代の現役世代に発症するケースが多くみられます。現役世代のほとんどの人は仕事や家事をしていることから、本人も周囲も症状に早く気づきやすいのでは、と思われるかもしれません。

しかし、実際には若年性アルツハイマーの症状が出ていても、「年齢のせい」「疲労やストレスのせい」「うつ状態の症状」などと誤解されることが多く、対応が遅れる傾向にあります。本人も家族も「まだ若いから認知症のはずがない」と思い込んでしまうケースも少なくないのです。

特に注意したい初期症状の例

  • これまで難なくできていた仕事にミスが目立つようになった
  • 会話のなかで言葉がすぐ出てこなくなった
  • 簡単な漢字が書けなくなった
  • 曜日や時間の感覚があいまいになることが増えた
  • 報告や連絡が漏れることが増えた
  • 感情の起伏がコントロールできなくなり、怒りっぽくなった
  • 料理などのマルチタスク作業に以前よりも時間がかかるようになった

これらは、若年性アルツハイマーの初期症状に見られる症状です。

以上のような症状がひとつだけ現れる場合もあれば、いくつかが同時に進行していることもあります。

見逃されたまま症状が進行するリスクも

本人には「何かおかしい」という違和感があっても、それをうまく言葉にすることができず、「年齢のせい」「疲れのせい」と誤った判断をしてしまうこともあります。

また、周囲の家族や職場の同僚も「忙しいから」「一時的なものだろう」と見過ごしてしまい、異変を感じながらも適切な受診や相談に至らず、専門の機関を受診したときには症状がかなり進行しているというケースも少なくありません。

現役世代での若年性アルツハイマー発症が及ぼすさまざまな影響や課題

若年性アルツハイマーは、40代~50代の働き盛りの現役世代で発症することが多いことから、本人だけではなく、家族や周囲へさまざまな影響を及ぼす可能性があります。

ここからは、若年性アルツハイマーが及ぼす影響や課題について、「仕事」「家計」「育児」「介護」の4つの側面から解説します。

仕事への影響

若年性アルツハイマーを発症すると、認知機能の低下が顕著になるため、これまでどおりの仕事を継続していくことが困難になります。記憶力・判断力の低下により、仕事のミスが増える、報連相がうまくできない、手順がわからなくなるといったトラブルが起こりやすくなります。

また、若年性アルツハイマーの症状に対して、職場の上司や同僚から十分な理解を得られないことも少なくなく、仕事を継続するためのサポートを受けることが難しい場合もあります。

家計への影響

若年性アルツハイマーを発症すると、症状の進行にともなってこれまでのように仕事を続けることが難しくなり、やがて離職を余儀なくされるケースも少なくありません。そうなってしまうと、世帯収入の減少は避けられず、家計にとっては深刻な打撃となります。

加えて、介護や医療にかかる費用が継続的に発生することもあり、家計へ長期的な影響を及ぼします。

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育児への影響

若年性アルツハイマーは、本人だけではなく家庭全体にも大きな影響を及ぼします。特に育児中の場合は、育児や家事を担当していた本人が十分にこなせなくなり、パートナーや子どもへの負担が一気に高まることが考えられます。

また、子どもやパートナーにとっては、頼れる存在がどんどん変わっていく姿に戸惑い、ストレスや不安を抱えることも少なくありません。そのため、家族全体へのメンタルケアやサポートが必要になります。

介護の課題

若年性アルツハイマーの場合、誰が介護を担うのかという点が大きな課題になります。パートナーや親などの家族が介護を担うことが多いようですが、家族自身も現役世代である場合、仕事や子育てで多忙なことから介護との両立は難しいというケースがみられます。

また、親世代がすでに高齢であることも多く、長期的な介護を続けるには身体的にも精神的にも難しい場合があります。

若年性アルツハイマーの早期発見が重要な理由

若年性アルツハイマーならびにアルツハイマー病は進行性の病気で、現代医学では完治させることは困難とされています。

しかし、近年の研究の進展で認知機能低下の抑制に期待できる薬が登場したことにより、若年性アルツハイマーを症状の軽い初期の段階で早期発見して治療を開始することで、症状の進行を抑えることに期待ができるようになりつつあります。

若年性アルツハイマーを早期発見するためにできること

自分が若いうちにアルツハイマー病などの脳の病気になることを、具体的に想像することはあまりないかもしれません。しかし、「まだ若いし関係ない」と何も対策しないままでいると、知らず知らずのうちに発症リスクを高めてしまう可能性があります。

アルツハイマー病と診断された方の多くは、症状が現れる10年~20年前には脳の変化が始まっているといわれています。たとえば60歳で発症する場合、脳の変化は40歳頃から始まっている可能性があります。

若年性アルツハイマーの早期発見や発症の予防のためには、40代~50代の比較的若いうちから、自分の脳の状態を定期的にチェックすることが大切です。

若年性アルツハイマーの発症リスクを低減するには、「症状があらわれてから」ではなく、「症状があらわれる前から」自分の脳の状態を把握しておくことが大切です。

若年性アルツハイマーの早期発見に役立つMRI活用法

脳は人間の臓器のなかでも特に個人差が大きいといわれています。そのため、病気による変化があらわれても、同年代の平均的な脳との比較だけでは診断が難しいケースもあります。

異常があらわれる前の自分自身の「健康な状態の脳」をMRI画像で定期的に残しておくことで、自身の「健康な状態の脳」の画像と現在の画像を比較することができます。これにより、単なる同年代の平均との比較だけではなく、脳の変化を正確に把握することが可能になるため、医師が若年性アルツハイマーを早期発見・診断することに大きく役立ちます。

特に、40代や50代といった比較的若い世代で発症するケースが多い若年性アルツハイマーは、その年齢になる前から定期的にMRI検査で脳の状態をチェックすることが、将来的なリスク因子の発見や早期発見へとつながります。

近年では、MRI画像をもとに脳内の海馬の体積や、加齢にともなう微細な変化をAIが解析する技術が登場しており、これまでよりもさらに精度の高い脳のモニタリングが可能になっています。

また、若年性アルツハイマーのうち海馬の萎縮が見られないケースもあり、医師の判断によってPET検査などのより精密な検査を行う場合もあります。

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40代からはじめる若年性アルツハイマー対策

喫煙や運動不足・偏った食事・睡眠不足などの生活習慣が長年にわたり積み重なることで、脳の健康に悪影響を及ぼし、結果として若年性アルツハイマーを含むアルツハイマー病や認知症の発症リスクを高めることが知られています。

だからこそ、体力も意欲もある40代のうちから、若年性アルツハイマーのリスク因子を意識し、そのリスクを減らすための習慣づくりをはじめることが大切です。

とはいえ、若年性アルツハイマーを予防するために特別なことをする必要はなく、日常生活のなかで心と体の健康を保つことを意識することが、結果的に将来の脳の健康を守る第一歩になります。

禁煙の実践

喫煙は、脳の血流を低下させたり、脳卒中のリスクを高めたりするアルツハイマー病のリスク因子のひとつです。

すでに喫煙習慣がある方でも、今から禁煙を始めることで将来の脳の健康に大きく貢献できることが多くの研究で示されています。禁煙は何歳からでも遅すぎることはなく、若年性アルツハイマーの対策の第一歩として有効です。

運動習慣をつけて適正体重をキープ

中年期の肥満は、アルツハイマー病の発症リスクを高めることが複数の研究で明らかになっています。特に、筋肉量が少なく肥満状態にある人は、発症リスクが約6倍以上も高まるとするデータもあります。

また、高齢になっても筋力を保っている人は、筋力の低い人に比べてアルツハイマー病の発症リスクが長期的に抑制されていた、という研究結果もあります。

肥満を解消するには、食生活の見直しが欠かせませんが、あわせて運動をより多く取り入れて筋肉をつけることを意識することが大切です。

高齢になってから運動習慣をつけることはなかなか難しいものがあります。だからこそ、若いうちから日常的に運動する習慣をつけ、筋力を維持することが大切です。無理なく楽しく続けられる運動を若いうちから取り入れることが、将来の健康を守ることにつながります。

脳と身体にやさしい食生活を心がける

日々の食生活は、脳の働きや身体の健康を維持するうえでとても重要です。

多忙な毎日のなかで、食事の内容に気を配れないことが増えていませんか。若年性アルツハイマーの予防のひとつとして、日々の食生活を見直し、脂質や糖質のバランスが取れた食事を心がけましょう。

近年、特に注目されているのが、イタリアとギリシャの伝統的な食事スタイルである「地中海食」です。野菜・果物・魚・オリーブオイルを中心としたこの食事法は、心血管疾患や糖尿病の予防効果に加え、アルツハイマー病の発症リスクの低下にもつながるという研究データがあります。

日々の食事に地中海食の考えを取り入れるのも、若年性アルツハイマー対策のひとつです。以下の食事のポイントのなかで、初めやすいと思うものから取り入れてみてください。

  • 多様な食材をバランスよく摂る
  • 多種類の野菜をしっかりと摂取する
  • 毎週2回以上は魚料理を食事メニューに取り入れる
  • サラダには市販ドレッシングではなくオリーブオイルを使う

適切な睡眠時間の確保

睡眠は、脳の老廃物を排出して神経細胞の回復を促す大切な時間です。特に、アルツハイマー病の原因物質のひとつである「アミロイドβ」は、深い睡眠中に脳内から効率的に除去されると考えられており、慢性的な睡眠不足は発症リスクを高める要因となります。

とはいえ、睡眠時間はただ長くすればよいわけでもありません。10時間以上の長時間睡眠も、アルツハイマー病の発症リスクを高めるという研究報告もあるからです。

理想的なのは、5時間から7時間の適度な睡眠時間を毎日確保することです。毎日できるだけ決まった時間に就寝し、規則正しい生活リズムを整えることで脳の回復力を高める効果に期待できます。

ていねいなデンタルケア

歯と脳の健康は一見関係がないように思えるかもしれませんが、歯周病や歯の喪失もアルツハイマー病のリスク因子となることが近年の研究で明らかになっています。失った歯の本数が多くなるほど、アルツハイマー病の発症リスクが高まるという研究データもあるほどです。

歯が残っている若いうちからまめなデンタルケアを毎日おこなうことが大切です。歯の喪失を防止することができ、将来的な脳の健康を守ることにもつながります。

毎日の朝・昼・夜の歯磨きに加えて、起床後と就寝前にも歯磨きをすることで歯周病や虫歯のリスクを抑制できます。さらに歯間ブラシやフロスを併用すると、ていねいなケアをより徹底できるでしょう。

また、定期的に歯科検診を受け、歯石除去や早期治療をおこなうことも欠かせません。

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まとめ

今回は、若年性アルツハイマーの特徴について解説するとともに、早期発見の方法や日常でできる対策について紹介してきました。

若年性アルツハイマーは、発症年齢が比較的若く、本人も周囲も気づきにくい病気です。しかし、定期的に脳の状態をチェックし、その変化を記録していくことで早期発見することが可能です。

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【参考文献(ウェブサイト)】

【参考文献(書籍)】

  • 秋下雅弘(2023). 目で見てわかる認知症の予防. 成美堂出版.
  • 朝田隆(2023). 認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること. アスコム.
  • 朝田隆/森進(2023). 認知症を止める「脳ドック」を活かした対策. 三笠書房.
  • 旭俊臣(2022). 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症. 幻冬舎.

【参考文献(論文)】

  • 川勝忍(2018). 「非定型アルツハイマー病の臨床・画像・病理」. 老年期認知症研究会誌, 22(19), 115-118.

この記事の監修者

佐藤俊彦 医師

佐藤俊彦 医師

福島県立医科大学卒業。日本医科大学付属第一病院、獨協医科大学病院、鷲谷病院での勤務を経て、1997年に「宇都宮セントラルクリニック」を開院。
最新の医療機器やAIをいち早く取り入れ、「画像診断」によるがんの超早期発見に注力、2003年には、栃木県内初のPET装置を導入し、県内初の会員制のメディカル倶楽部を創設。
新たに 2023年春には東京世田谷でも同様の画像診断センター「セントラルクリニック世田谷」を開院。
著書に『ステージ4でもあきらめない 代謝と栄養でがんに挑む』(幻冬舎)『一生病気にならない 免疫力のスイッチ』(PHP研究所)など多数。