トップ > 公式ブログ > 歯周病がアルツハイマー病と関係する?最新研究からみる歯周病のリスクとメカニズムについて解説

歯周病がアルツハイマー病と関係する?最新研究からみる歯周病のリスクとメカニズムについて解説

歯周病がアルツハイマー病と関係する?最新研究からみる歯周病のリスクとメカニズムについて解説のイメージ画像

日本人に最も多い認知症のタイプは、アルツハイマー型認知症です。これはアルツハイマー病を原因として発症する認知症を指します。ただし、すべてのアルツハイマー病がすぐに認知症と診断されるわけではありません。アルツハイマー病が進行し、記憶力や判断力などの認知機能が低下して、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を、アルツハイマー型認知症と呼びます。

アルツハイマー病はこれまで、生活習慣病をはじめとするさまざまな疾患との関連が指摘されてきました。そうした中、近年の研究によって新たに注目を集めているのが「歯周病」との関係です。アルツハイマー病は脳に病変が生じる疾患であるため、一見すると口腔内の病気である歯周病とは無関係に思えるかもしれません。しかし、最新の知見からは、両者の間に見過ごせないつながりがある可能性が示唆されています。

そこで今回は、歯周病がもたらすリスクや、認知症との関連が考えられているメカニズムについて解説するとともに、歯周病を予防するために今日からできる具体的な取り組み方について紹介していきます。

歯周病とは

歯周病とは、細菌感染によって引き起こされる炎症性疾患で、歯の周囲にある歯ぐき(歯肉)や、歯を支えている骨(歯槽骨)などが徐々に破壊されていく病気です。主な原因は、磨き残しによる歯と歯ぐきの境目に溜まった歯垢(プラーク)に含まれる細菌で、進行すると、歯を支える組織が弱くなり、最終的には歯が抜け落ちてしまうこともあります。

私たちが普段目にしている「歯」は、主に歯ぐきの上に出ている「歯冠部」と呼ばれる部分です。しかし、歯の本体はそれだけではなく、歯ぐきの中に埋まっている「歯根部」と一体となって構成されています。

歯周病で主にダメージを受けるのは、この歯根部周辺です。歯は顎の骨から直接生えているわけではなく、「歯槽骨」と呼ばれる骨に支えられ、その間を「歯根膜」というクッションの役割をもつ組織がつないでいます。さらに、この歯根膜に含まれる「歯根膜繊維(しこんまくせんい)」が歯を支えることで、正常な位置に保っています。

歯周病が発症すると、歯肉や歯根膜、さらに歯槽骨の周囲に炎症が起こります。炎症が長期間続くと、歯と歯ぐきの間に「歯周ポケット」と呼ばれるすき間が深くなり、歯を支える組織が徐々に破壊されていきます。そのまま放置すると、歯がぐらつき、最終的には歯を失ってしまう場合もあります。

歯周病は、一般に「歯槽膿漏(しそうのうろう)」と呼ばれることがありますが、これは歯周病が重度まで進行した状態を指します。そのため、「歯周病の重症化した段階が歯槽膿漏」である点に注意が必要です。

歯周病の怖さのひとつは、慢性的な炎症を引き起こす点にあります。歯周病は一時的なトラブルではなく、細菌感染が長期間にわたって持続する病気であり、口の中に原因となる細菌が常在している状態ともいえます。そのため、一度発症すると再発しやすく、細菌が血流に乗って全身に影響を及ぼす可能性があると考えられています。

近年の研究では、アルツハイマー病だけでなく、糖尿病や動脈硬化などの疾患との関連性も指摘されており、歯周病は「口の中だけの病気」ではないことが明らかになってきています。

歯周病がアルツハイマー病と関係する?最新研究からみる歯周病のリスクとメカニズムについて解説のイメージ画像
画像素材:PIXTA

アルツハイマー病とは

アルツハイマー病は、脳の一部である海馬や大脳皮質を中心に、脳全体の萎縮を引き起こす神経変性疾患のひとつです。特に、記憶をつかさどる海馬や、言語能力・計算能力・判断力といった認知機能を担う大脳皮質が障害されることで、認知機能がゆるやかに低下していきます。そのため、アルツハイマー病は認知症を引き起こす代表的な原因疾患であり、認知症と診断される方のおよそ6割を占めます。

アルツハイマー病の正確な発症メカニズムは、現在も世界中で研究が進められており、まだ完全には解明されていません。そのうち、代表的な仮説の一つとして「アミロイドβ仮説」があります。

この仮説では、本来は排出されるはずの「アミロイドβ」と「タウたんぱく質」と呼ばれる異常たんぱく質が脳内に過剰に蓄積し、周辺の神経細胞に障害を与えることで、海馬や大脳皮質などの萎縮が進行すると考えられています。その結果、神経細胞同士の情報伝達が妨げられ、認知機能の低下が引き起こされるとされています。

アミロイドβやタウたんぱく質は、脳が活動する過程で自然に生じる、いわば「脳の老廃物」のようなものです。通常であれば、主に睡眠中に排出されるため、過剰に蓄積することはありません。しかし、加齢などによって排出機能が低下すると、異常たんぱく質が脳内に蓄積しやすくなり、それがアルツハイマー病発症の一因になると考えられています。

歯周病とアルツハイマー病の意外な関係

一見すると、歯周病は口腔内だけの問題のように思われがちですが、その影響は決して口の中だけにとどまりません。歯周病菌による毒素や細菌そのものが血流に乗って全身へと運ばれ、さまざまな臓器に影響を及ぼす可能性があることが分かってきています。

その中でも注目されているのが、歯周病原菌が血液を介して脳に達する可能性です。脳に到達した細菌が、アルツハイマー病の原因物質と考えられているアミロイドβやタウたんぱく質と相互に作用し、脳の免疫細胞である「ミクログリア」を過剰に活性化させる可能性が示されています。この働きによって脳内に慢性的な炎症反応が引き起こされ、神経細胞が障害されることで、アルツハイマー病の進行が促される可能性が示唆されています。

もちろん、歯周病がアルツハイマー病を直接引き起こすわけではありません。しかし、歯周病によって脳内の炎症が助長されることで、アルツハイマー病の発症時期を早めたり、認知機能の低下を進めてしまう可能性が指摘されています。歯周病は決して口腔だけのトラブルではなく、脳の健康に影響を与える要因にもなり得るのです。

歯周病がアルツハイマー病と関係する?最新研究からみる歯周病のリスクとメカニズムについて解説のイメージ画像
画像素材:PIXTA

歯周病がフレイルの一因に

歯周病は口腔内の病気にとどまらず、間接的に認知症のリスクを高める要因としても注目されています。その背景にあるのが、「フレイル」と呼ばれる心身の虚弱状態です。

フレイルとは、加齢などにより筋力や体力といった身体機能が低下し、食欲や代謝などの生理機能も衰えることで、ストレスや環境変化に適応しにくくなり、要介護状態に陥るリスクが高まった状態を指します。フレイルに陥ると、活動量が減少して行動範囲が狭まり、脳への刺激も著しく減少しやすくなります。その結果、認知機能の低下が進み、認知症の発症につながるケースも少なくありません。

フレイルは、一気に急激な変化が起こるわけではなく、ゆるやかなスロープを下るように徐々に進行すると考えられています。そして、この「スロープ」の入り口に位置づけられているのが「オーラルフレイル」です。歯周病は、噛む力の低下や食事量の減少などを引き起こし、オーラルフレイルに陥る主要な要因のひとつとされています。

オーラルフレイルとは

オーラルフレイルとは、比較的新しく提唱された概念で、口腔機能の衰えが積み重なることで、全身の健康に影響を及ぼす状態を指します。

加齢や生活環境の変化などをきっかけに、活動量の減少や意欲低下、抑うつ傾向などが生じると、口腔ケアへの関心が薄れやすくなります。その結果、歯磨きや歯科医院での定期的なメンテナンスがおろそかになり、歯周病や虫歯(う蝕)が進行し、歯を失うリスクが高まります。

オーラルフレイルを放置すると、十分に噛めなくなることで食事量や栄養摂取量が低下し、低栄養や代謝機能の低下につながります。さらに、そうした状態が続くことでフレイルへと進行し、要介護状態に至るケースも少なくありません。その結果、身体活動量の減少とともに脳への刺激も乏しくなり、認知症を発症するリスクが高まると考えられています。

口腔環境を清潔に保ち、歯や歯ぐきの健康を維持することは、口の中だけでなく全身の健康を守ることにつながり、ひいては将来の認知症予防にも寄与する重要な習慣でもあるのです。

アルツハイマー病予防のために重要な「定期的な口腔チェック」

歯周病は決して珍しい病気ではなく、40代以降の中高齢者の多くが罹患しているとされており、非常に身近な疾患です。それにもかかわらず、初期段階では痛みなどの自覚症状が出にくく、気づいたときにはすでに進行しているケースも少なくありません。

こうした背景から、歯周病予防で大切になるのが、日々の丁寧な口腔ケアと、歯科医院での定期的なチェックです。

基本的なケアは毎日の歯磨きですが、どれだけ丁寧にブラッシングしても、歯と歯の間や歯の裏側などには磨き残しが生じやすく、セルフケアだけでは限界があります。実際に、デンタルフロスや歯間ブラシを併用した場合でも、一定の割合で磨き残しが生じるといわれています。

そのため、歯周病対策の基本は、毎日できるだけ丁寧にブラッシングをおこない、定期的に歯科医院で歯石除去や専門的なクリーニングを受けることです。口腔内には、自分では直接確認しにくい部分が多くあります。だからこそ、専門家による第三者視点での定期チェックが、口腔環境を良好に保つうえで欠かせません。

歯周病がアルツハイマー病と関係する?最新研究からみる歯周病のリスクとメカニズムについて解説のイメージ画像
画像素材:PIXTA

認知症予防につながる口腔ケア方法

ここからは、認知症予防の観点からも役立つ口腔ケアのポイントについて紹介します。前述のとおり、セルフケアでもっとも大切なのは「丁寧なブラッシング」を習慣づけることです。

歯周病をはじめとする口腔トラブルを防ぐためには、日々の磨き残しを可能な限り減らすことが欠かせません。歯と歯ぐきの境目、歯の裏側、奥歯の噛み合わせ部分など、汚れがたまりやすい場所を意識しながら、時間をかけて細かくブラッシングすることが、良好な口腔環境の維持につながります。

毎日の歯磨きで注意するポイント

毎日の歯磨きで最も大切なのは、「歯を一本ずつ丁寧に磨く」という意識を持つことです。私たちは歯磨き中、歯の形を細かく意識することはあまりありませんが、実際には歯の形状は部位によって大きく異なります。

たとえば、前歯は薄く磨きやすい一方で、犬歯はカーブが強く、奥歯(臼歯)は隣の歯と接する面が多く複雑な構造をしています。そのため、歯磨きをする際には、それぞれの歯の形に合わせてブラシの角度や当て方を変え、磨き残しが出ないよう意識することが重要です。

また、手鏡を使って磨くと、自分がどこを磨いているのか視覚的に確認できるため、磨き残しの予防に効果的です。常に鏡を見ながら磨く必要はありませんが、仕上げだけでも鏡を使いながら磨く習慣をつけると、口腔環境の改善に大きく役立ちます。

デンタルフロス・歯間ブラシの重要性

歯磨きは口腔ケアの基本ですが、実はブラッシングだけで歯の汚れを完全に落とすことはできません。歯ブラシで除去できる汚れはおよそ60%程度といわれており、残りは歯と歯の間など、ブラシが届きにくい部分に残ってしまいます。そこで活躍するのが、デンタルフロスや歯間ブラシです。これらを併用することで、磨き残しを大幅に減らし、より清潔な口腔環境を維持できます。

デンタルフロスには「糸巻きタイプ」と「ホルダータイプ」があります。糸巻きタイプは細かい部分までしっかり歯垢を取り除けますが、慣れるまでは扱いにくいため、初めてフロスを使う人はホルダータイプから始めるとよいでしょう。ホルダータイプには、前歯に使いやすいF字型や、奥歯向けのY字型などさまざまな形状があります。自分が使いやすいタイプを選ぶことが、継続のポイントです。

フロスを使う際は、歯の側面に沿わせるように上下に動かし、歯茎のラインまで丁寧に通すことが重要です。これにより、落としにくい歯垢をしっかり取り除くことができます。

一方、歯間ブラシは歯と歯の根元にできる三角形の隙間に適したケア用品です。若い頃はこの隙間が小さいため、必要性が低い場合もありますが、年齢とともに歯茎が下がると三角形のスペースが広がり、歯間ブラシが有効になります。隙間がある方は、ぜひ日々のケアに取り入れてみてください。

歯間ブラシには金属ワイヤータイプとゴムタイプがありますが、金属ワイヤータイプは扱いによって歯茎を傷つけてしまう可能性があります。安全性を考えると、歯茎を傷つけにくいゴムタイプがおすすめです。

デンタルフロスや歯間ブラシを毎回の歯磨きで使用するのは難しいところがありますが、一日の最後の歯磨きの仕上げとして取り入れるだけでも、口腔内を清潔に保ちやすくなります。こうしたケアを継続することで、歯周病予防や口腔環境の改善につながります。

歯周病がアルツハイマー病と関係する?最新研究からみる歯周病のリスクとメカニズムについて解説のイメージ画像
画像素材:PIXTA

口腔内保湿の習慣

ブラッシングとあわせて、口腔内の保湿を習慣にすることも、健康な口腔環境を維持するうえで欠かせません。私たちの口の中は普段、唾液によって潤いが保たれています。唾液には抗菌作用や、歯周病などの感染症を防ぐ働き、初期の虫歯が進行しないように守る作用など、多くの役割があります。

しかし、唾液は加齢に伴って分泌量が減少しやすく、乾燥が進むとむし歯になりやすくなる、歯周病が進行しやすくなるなどのリスクも高まります。

そこで、外部から意識的に口腔内を保湿することが、こうしたトラブルの予防につながります。市販の口腔保湿ジェルや保湿スプレーなどを取り入れると、口の中を十分に潤し、唾液と近い働きを補うことができます。 保湿剤を選ぶ際には、唾液に近い成分(保湿性・粘性・潤滑性を補う成分)を多く含む製品を選ぶと、より効果的です。

定期的な歯科検診

日頃からセルフケアをおこなうことはもちろん大切ですが、それに加えて「定期的な歯科検診」を続けることで、虫歯や歯周病を重症化する前に予防することができます。もし最近歯科医院に足を運んでいない、しばらく検診を受けていないという方は、この機会に一度受診してみることをおすすめします。

さらに、歯科についても「かかりつけ医」を持つことをおすすめします。歯の健康状態は長い時間をかけて変化するため、その都度別の歯科医院を受診していると、治療の経過が追いにくく、重要な変化を見落としてしまう可能性があります。一人の歯科医に継続して診てもらうことで、状態の変化に気づきやすくなるだけでなく、相談もしやすく、より細やかなケアを受けられます。

かかりつけ医とは、地域に根ざし、気になることを気軽に相談できる身近な医師のことを指します。特に歯科治療は、症状が進むと治療期間が長くなる場合が多く、噛み合わせや発声など日常生活への影響も出やすい分野です。だからこそ、治療の意図や必要性を丁寧に説明してくれる、信頼できる歯科医を早めに見つけておくことが大切です。

まとめ

今回は、歯周病のリスクやアルツハイマー病との関連性、その背景にあるメカニズムについて解説し、歯周病を予防するための具体的な取り組みをご紹介しました。

歯周病が及ぼす影響は口腔内だけにとどまらず、全身の健康にも悪影響を及ぼす可能性が示されています。しかし、毎日の丁寧なブラッシングと適切なケアを継続することで、予防しやすい疾患でもあります。

認知症についても同様に、脳や全身の健康を損なわない生活習慣を続けることで、発症リスクを抑えることが期待できます。そこであわせて活用をおすすめしたいのが『認知症と向き合う365』というサービスです。定期的に認知機能をセルフチェックできるため、小さな変化にも気づきやすく、早期発見のサポートに役立ちます。さらに、AIが脳のMRI画像を詳細に解析するサービス「BrainSuite®」も利用できるので、自身の脳の状態を継続的に確認することができます。

日々の口腔ケアとあわせてこれらのサービスを活用することで、将来の認知症対策として役立てていただけることが期待できます。ぜひ日常生活に取り入れ、長く健康を守るための習慣づくりに役立ててください。


【参考文献(ウェブサイト)】

  • 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(2024). あたまとからだを元気にするMCIハンドブック. [オンライン]. 2025年12月24日アクセス,
    https://www.mhlw.go.jp/content/001272358.pdf

【参考文献(書籍)】

  • 秋下雅弘(2023). 目で見てわかる認知症の予防. 成美堂出版.
  • 上村理絵(2024). こうして、人は老いていく. アスコム.
  • 水口俊介(2025). からだの「衰え」は口から 歯と健康の科学. 講談社.

この記事の監修者

佐藤俊彦 医師

佐藤俊彦 医師

福島県立医科大学卒業。日本医科大学付属第一病院、獨協医科大学病院、鷲谷病院での勤務を経て、1997年に「宇都宮セントラルクリニック」を開院。
最新の医療機器やAIをいち早く取り入れ、「画像診断」によるがんの超早期発見に注力、2003年には、栃木県内初のPET装置を導入し、県内初の会員制のメディカル倶楽部を創設。
新たに 2023年春には東京世田谷でも同様の画像診断センター「セントラルクリニック世田谷」を開院。
著書に『ステージ4でもあきらめない 代謝と栄養でがんに挑む』(幻冬舎)『一生病気にならない 免疫力のスイッチ』(PHP研究所)など多数。