トップ > 公式ブログ > 認知症予防に効く食事とは?今日からできる脳に優しい食生活

認知症予防に効く食事とは?今日からできる脳に優しい食生活

認知症予防に効く食事とは?今日からできる脳に優しい食生活のイメージ画像

私たちは毎日、食事によってエネルギーや栄養を補給しながら生活しており、食べることは生命を維持するうえで欠かすことができない行為です。中国には「薬食同源」という言葉があり、「すべての食材には薬と同じような効能があり、正しい食事は健康を支える一方、誤った食生活は病気を招く原因になる」という考え方が古くから伝わっています。日々口にする食事は、身体を形づくる土台であり、健康状態を左右する大切な要素なのです。

また、口から入った食べ物を消化・吸収するのは腸であるため、食事は命を支えるものであると同時に、身体に一定の負担をかける行為でもあります。そのため、身体への負担を抑えつつ、必要な栄養素を過不足なく摂ることが、健康維持において大切です。

特に、生活習慣と深い関わりのある認知症の予防においても、毎日の食事内容が非常に重要です。そこで今回は、食事と脳の関係についてわかりやすく解説し、あわせて脳に優しい栄養素やおすすめの食品について紹介します。

食事が認知症予防に重要な理由

私たちの身体は、およそ37兆個もの細胞によって構成されており、これらの細胞は日々生まれ変わりながら機能を保っています。そして、その材料となるのが、毎日の食事から摂取する栄養素です。

ただし、「栄養さえ取れればいい」というわけではありません。脂肪分や糖質を過剰に摂取すれば脂肪が蓄積しやすくなり、代謝の低下など身体の健康に悪影響をもたらします。身体をつくる栄養素は適量をバランスよく摂ることが何よりも重要です。

これは身体だけでなく、脳についても同様です。脳もまた、私たちが日々口にする栄養によってつくられており、特にDHAやEPAといったn-3系脂肪酸などは、脳の健康に良い働きをもたらすことで知られています。こうした栄養素は体内では十分に合成できないため、食事から取り入れるほかありません。さらに、脳と身体は密接に影響し合っており、切り離せない関係にあります。身体の健康状態が損なわれれば、血流や代謝を通じて脳にも影響が及びます。つまり、脳の健康を保つということは、身体全体の健康を整えることとほぼ同義です。

そのため、脳の働きを良い状態に保つためにも、まずは身体を形づくる栄養素を意識的かつバランスよく摂取することが重要です。毎日の食事選びが、未来の脳の健康を支える土台となるのです。

認知症と食事の関係

認知症と食事の関係に触れる前に、まず認知症とはどのような状態なのかを確認しておきましょう。認知症とは、特定の病気そのものを指す名称ではありません。「脳や身体のさまざまな疾患やトラブルによって認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障が出ている状態」の総称です。そのため、認知症の原因となる疾患は複数存在し、多くが根本的な治療や完治が難しいのが現状です。

そのため、認知症は「ならないこと」、つまり予防が非常に重要になります。そして、認知症予防とは実質的に人生規模の健康づくりといっても過言ではありません。なぜなら、認知症の原因となる病気の多くは、それまでの生活習慣と深く結びついていることが明らかになっているからです。

認知症予防、つまり認知症の発症リスクを下げることは、健康に悪影響を及ぼす習慣を見直し、より良い生活習慣へと切り替えていくことにほかなりません。その基盤となるのが、やはり「食事」です。

先ほど述べたように、身体の健康と脳の健康は切り離すことができません。脳の働きを良い状態で保つ食事とは、すなわち身体全体を健康に導く食事でもあります。食生活をはじめとした生活習慣を整えることは、認知症予防に直結する重要な取り組みになります。

毎日の食事選びが、将来の脳と身体の健康を支える大切な一歩となるのです。

認知症予防に効く食事とは?今日からできる脳に優しい食生活のイメージ画像
画像素材:PIXTA

脳に良い栄養素

前提として、どれほど健康に良いとされる食材であっても、摂りすぎれば身体に負担となり、時には有害になることがあります。私たちが生きていくためには実に多様な栄養素が必要であり、最も重視すべきなのは「バランスの良い食事」です。

つまり、健康維持において重要なのは「脳に良いとされる栄養素をとにかく多く摂ること」ではありません。むしろ特定の栄養だけに偏った食事を長期間続けると、かえって健康を損なうことが明らかになっています。「身体に良いことをしているつもりが、気づけば不調を招いていた」というケースも珍しくありません。

そのため、まず優先すべきは全身の栄養バランスを整えることです。また、必要とされる栄養バランスは年齢・性別・生活習慣によっても異なります。健康づくりの第一歩として、「食事バランスガイド」などの公的な指標を参考に、自分に必要な栄養量を見直してみることをおすすめします。

そのうえで、これから紹介する脳に良い働きをもたらす栄養素を多く含む食材を適量取り入れることで、脳の健康をより良い方向へサポートする効果が期待できます。食事はまさに「過ぎたるは及ばざるがごとし」です。どれか一つに偏るのではなく、バランスを重視した食生活こそが、脳と身体の健康を守る鍵となります。

DHA・EPA(青魚に含まれる脂肪酸)

「魚を食べると頭が良くなる」という言葉はよく耳にしますが、その背景には一定の科学的根拠があります。青魚に多く含まれるDHA・EPAといったn-3系脂肪酸は、脳の健康に良い影響を与えることがさまざまな研究で示されています。

DHAには記憶力や学習機能に関わる働きがあり、神経細胞を保護する作用も報告されています。一方、EPAには血液を固まりにくくする作用が知られており、脳の血流を良好に保つことに寄与します。これらを適切に摂取することで、脳機能の維持・向上や認知症予防に役立つと考えられています。

ただし、DHAやEPAといったn-3系脂肪酸は化学的に非常に不安定で、酸化しやすい性質を持っています。そのため、干物など加工の段階で栄養素が変性してしまう可能性があります。サプリメントで摂取できるケースもありますが、加工や保存の過程でどの程度効果が保たれているかは明確でない部分もあります。

そのため、できるだけ新鮮な魚を普段の食事に取り入れることを意識しましょう。青魚を中心に、旬の魚を上手に取り入れることで、脳に必要な脂肪酸を自然な形で補うことができます。

認知症予防に効く食事とは?今日からできる脳に優しい食生活のイメージ画像
画像素材:PIXTA

ポリフェノール(ベリー類・緑茶など)

老化の大きな要因の一つに「細胞の酸化」があります。私たちの身体はエネルギーをつくり出す際に活性酸素を生み出しますが、この活性酸素は年齢とともに増え、細胞を傷つけてしまいます。これが老化を引き起こす要因の一つとされており、脳においても酸化は認知機能の低下と深く関係していると考えられています。

そのため、酸化を抑えることは認知症を含むさまざまな老年期の疾患予防に役立つとされています。そこで注目されているのが、抗酸化作用を持つ「ポリフェノール」です。ポリフェノールはほとんどの植物が持つ苦味や色味の成分で、赤ワインやブルーベリー、緑茶などに多く含まれています。これらを適量、日常的に取り入れることで、脳の健康維持や認知機能のサポートにつながる可能性が期待されています。

一口にポリフェノールといっても、その種類は非常に多様で、含まれる食品もさまざまです。特定の食品に偏るのではなく、幅広い食材からバランスよく摂取することがポイントです。代表的なものを挙げると、次のような種類があります。

  • アントシアニン:ブルーベリー、なす、カシス、ブドウなど
  • イソフラボン:大豆や大豆製品など
  • カカオポリフェノール:ココア、チョコレートなど
  • カテキン:緑茶、紅茶など
  • ケルセチン:玉ねぎ、ブロッコリー、リンゴなど
  • タンニン:柿、レンコン、赤ワインなど
  • フラバノン:レモン、ミカンなど
  • ルチン:そば、アスパラガスなど
  • クルクミン:ウコン、しょうがなど
  • クロロゲン酸:コーヒー、ゴボウ、リンゴ、モロヘイヤなど
  • セサミン:ゴマなど

このように、ポリフェノールは種類がとても豊富です。だからこそ、日々の食卓で多様な植物性食品を取り入れ、偏りなく適量を摂ることが、脳と身体の健康を守るうえで大切です。

発酵食品・食物繊維

脳と腸がお互いに深く影響を与え合っており、腸の状態が脳の健康にまで影響を及ぼすことがわかってきています。この関係は「脳腸相関(のうちょうそうかん)」と呼ばれ、近年注目を集めています。腸に良い栄養はそのまま「脳にも優しい栄養」にもなるのです。

腸の健康を整えるために役立つ代表的な栄養素を含む食品として、ビフィズス菌を含むヨーグルト、乳酸菌を多く含むチーズ・納豆・キムチなどの発酵食品、そして食物繊維を豊富に含む玄米や大麦が挙げられます。これらの食品は、腸内細菌のバランスを整え、腸の働きをサポートすることが期待されています。

毎日の食事に適度に取り入れることで、腸内環境が改善され、その結果として脳の健康にも良い影響が及ぶ可能性が高まります。発酵食品や食物繊維を意識的に取り入れ、腸と脳の健康をサポートしましょう。

脳に優しい食生活を続けるためのコツ

これまで、脳の健康に良いとされる栄養素や食品を見てきました。青魚や発酵食品、ポリフェノールを含む食材など、脳にプラスの影響を与える食品は多岐にわたります。しかし、どれか一つだけを極端に多く摂れば良い、というわけではありません。これまで見てきたように、特定の食品に偏った食事はむしろ健康を損なう原因にもなりかねません。

繰り返しになりますが、認知症予防の観点から最も大切なことは、さまざまな食品をバランスよく取り入れることです。まずはこの基本を意識し、そのうえで、食生活の改善を無理のない形で続けていくことが、長期的な脳の健康につながります。

食生活は「完璧を目指さない」のが長続きのポイント

認知症予防は、長期的に取り組む健康習慣です。とはいえ、忙しくて食事が偏る日もあれば、疲れて料理ができない日があるのは当然のことです。しかし、1日や2日の乱れは、長い目で見ればごくわずかなものです。過度に気にする必要はありません。

むしろ、完璧を目指すほど続けることが難しくなり、疲れてしまうこともあります。理想を追いすぎてストレスを感じてしまっては、健康づくりの本来の目的から外れてしまいます。

だからこそ、「完璧を求めない」ことが長続きの鍵になります。できる範囲でバランスの良い食事を心がけ、無理のないペースで続けていくことが、脳にも身体にも優しい食生活につながります。

認知症予防におすすめの食品

ここからは、認知症予防におすすめの食事について、具体的に見ていきましょう。

認知症予防に関して、一定の科学的根拠が示されている代表的な食事法に「地中海食」があります。ギリシャやイタリアなど地中海沿岸地域の伝統的な食文化で、オリーブオイルなどの良質な植物性油脂、豊富な野菜や果物、魚介類を日常的に取り入れていることが特徴です。地中海食の効果が科学的に示されている背景には、味付けが比較的シンプルで、食品ごとの影響を測定しやすいという研究上の利点があります。

一方、日本食は食材の種類も調理法も多様であるため、個々の食品が与える影響を細かく測定するのは難しい側面があります。しかし、「日本食を多くとっている人は認知症の発症が少ない」という宮城県大崎市の疫学研究もあり、無理をして地中海食を厳密に再現するのではなく、日本食をベースにしながら、地中海食の「多様な食材をバランスよく取り入れる」という考え方を組み合わせるのが現実的で続けやすい方法です。

さらに、ごはんと味噌汁を中心とした食事は、メンタルヘルスの改善と関連する研究結果も報告されています。認知症予防と心の健康の両面でメリットが期待できる点も、日常的に取り入れたい理由のひとつです。

食事の目安としては、「ご飯+味噌汁」を基本に、肉や魚などの主菜を1品、さらに野菜や海藻類の副菜を1品以上添えることを意識すると、バランスの良い食事に近づきます。

認知症予防に効く食事とは?今日からできる脳に優しい食生活のイメージ画像
画像素材:PIXTA

毎食に取り入れたい食品

認知症予防のために、毎食意識して取り入れたいのが「野菜」と「海藻類」です。野菜を多く摂取している人は、そうでない人に比べて認知症の発症リスクが低いという研究データも報告されています。特に、1日の野菜摂取量が270g以上になると、認知症のリスクが抑えられる傾向が示されており、日常的にしっかり摂っておきたい食材です。

野菜を取り入れる方法としては、サラダを一品加えるのも良いですが、野菜をたっぷり使った味噌汁やスープ、あえ物を添える方法もおすすめです。また、野菜をふんだんに使ったパスタや炒め物など、主食や主菜の中に自然に組み込むと、無理なく摂取量を増やすことができます。

ただし、注意したいのが、塩分の多い漬物や加工食品の過剰摂取です。塩分のとりすぎは高血圧や脳梗塞と深く関係しており、これらは認知症リスクの上昇にもつながります。せっかく認知症予防のために食事を整えていても、塩分過多ではかえって逆効果になりかねません。できるだけ薄味を意識し、調味料や漬物の量には気をつけましょう。

炭水化物を控えてタンパク質を豊富に

炭水化物中心の食生活は、認知機能に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。一方で、タンパク質を適切に摂ることは認知症予防に役立つとする研究も多く、代表的な例が、フィンランドで行われた大規模研究「FINGER研究」です。この研究では、認知症予防の食事として、総エネルギー量の10~20%をタンパク質から摂取することが推奨されています。つまり、炭水化物の量や質に配慮しながら、タンパク質をしっかりと確保することが重要です。

炭水化物を完全に避ける必要はありませんが、ごはんやパン、麺類などは適量を守ることがポイントです。目安としては、白米のごはんであれば一食のうち「茶碗に軽く1杯」程度にとどめるのが良いでしょう。主食だけに偏った食事は、認知症予防の観点では望ましくありません。

タンパク質を摂る際には、肉よりもできるだけ魚を中心に選ぶのがおすすめです。また、納豆や豆腐などの大豆製品を取り入れることで、さまざまな種類のタンパク質をバランスよく摂取できます。特に「肉か魚か」で比較すると、栄養面では魚のほうが有利であることを示す研究が多く、できれば週2回以上魚料理を取り入れたいところです。

魚は刺身やサバ缶など、調理がほとんど不要な食品でも十分に効果が期待できます。生活スタイルに合わせて、取り入れやすい方法を選びましょう。

お惣菜やお弁当の選び方

忙しい日々の中では、コンビニやスーパーなどのお惣菜・お弁当は便利な選択肢のひとつです。最近は品数も増え、選ぶ楽しさもあります。しかし、便利な一方でこれらの中食はカロリーや塩分が多くなりがちで、認知症予防の観点からは注意が必要です。

とはいえ、忙しい生活の中で完全に控えるというのは現実的ではありません。そこで、選ぶ際には商品の成分表示を確認し、次のポイントを意識しましょう。

  • 1食あたりのカロリーは600kcalを目安にする
  • 塩分量は1食2gを超えないようにする

この基準は、お惣菜やお弁当だけでなく外食時にも当てはまります。最近は多くの飲食店でカロリー表記がされているため、メニュー選びの際に参考にしてみてください。カロリーと塩分を意識するだけでも、食生活の質が大きく変わり、認知症予防にもつながっていきます。

デザートやおやつには果物やナッツ類を

季節ごとに新作が登場し、つい手が伸びてしまうお菓子。しかし、一般的なお菓子はカロリーや脂質が高く、認知症予防の観点ではあまりおすすめできません。楽しむにしても、月に数回程度にとどめておくのが理想的です。

その代わりに取り入れたいのが、果物やナッツ類です。果物は季節ごとにさまざまな種類が楽しめるうえ、果物を習慣的に食べている人は認知機能の低下が緩やかであるという疫学データもあります。ただし、果糖が多い品種もあるため、食べすぎには注意が必要です。あくまでデザートとして適量を意識して取り入れましょう。

一方、おやつにはカリウムやマグネシウムが豊富に含まれるナッツ類もおすすめです。特にナッツ類に含まれる不飽和脂肪酸には血中コレステロールや中性脂肪を減らす働きがあります。ただし、これらも食べすぎは禁物です。特に味付きのタイプは塩分が多くなりがちなので、無塩タイプを選ぶと安心です。小分けパックなら食べすぎ防止にも役立ちます。

認知症予防に効く食事とは?今日からできる脳に優しい食生活のイメージ画像
画像素材:PIXTA

まとめ

今回は、食事と脳の関係について解説し、脳の健康を支える栄養素や日常に取り入れやすい食品を紹介しました。

現時点では認知症を「完全に治す」方法は確立されていません。そのため、私たちができる最善のアプローチは、できる対策を積み重ねて、できるだけ早く気づける体制を整えることです。

しかし、認知症の初期に見られる認知機能の低下は、本人も周囲も気づきにくいのが現実です。その見えにくさを補うために役立つのが『認知症と向き合う365』です。本サービスでは、定期的に認知機能をセルフチェックできるほか、MRI画像をAIが詳細に解析する「BrainSuite®」も利用できるため、小さな変化にも気づきやすくなります。

日々の食生活を整えることに加えて、自分の状態を早い段階で把握できる環境をつくることが将来の健康への大切な投資になります。将来の健康を守るために、今の自分にできる一歩を踏み出してみませんか。


【参考文献(ウェブサイト)】

【参考文献(書籍)】

  • 秋下雅弘(2023). 目で見てわかる認知症の予防. 成美堂出版.
  • 伊藤裕(2025). 老化負債. 幻冬舎.
  • 大平哲也(2025). 健康な人の小さな習慣. ダイヤモンド社.
  • 上村理絵(2024). こうして、人は老いていく. アスコム.
  • 佐藤成美(2022). 本当に役立つ栄養学. 講談社.
  • 坪井貴司(2024). 「腸と脳」の科学. 講談社.

この記事の監修者

佐藤俊彦 医師

佐藤俊彦 医師

福島県立医科大学卒業。日本医科大学付属第一病院、獨協医科大学病院、鷲谷病院での勤務を経て、1997年に「宇都宮セントラルクリニック」を開院。
最新の医療機器やAIをいち早く取り入れ、「画像診断」によるがんの超早期発見に注力、2003年には、栃木県内初のPET装置を導入し、県内初の会員制のメディカル倶楽部を創設。
新たに 2023年春には東京世田谷でも同様の画像診断センター「セントラルクリニック世田谷」を開院。
著書に『ステージ4でもあきらめない 代謝と栄養でがんに挑む』(幻冬舎)『一生病気にならない 免疫力のスイッチ』(PHP研究所)など多数。