ストレスは健康にどう悪いの?認知機能への影響やストレス解消方法についても解説
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現代社会では、多くの人が日常的にストレスを抱えています。2022年の厚生労働省「国民生活基礎調査」では、男性41.2%、女性50.6%の人が「悩みやストレスあり」と回答しており、半数近くの人がストレスに直面していることがわかります。
ストレスによる影響は一時的な心身の不調にとどまらず、長期的には心疾患や脳疾患、さらには認知症の発症リスクを高める可能性があります。
そこで今回は、ストレスの基本的な仕組みや、健康に与える影響、さらに認知機能への影響について解説し、日常生活で実践できるストレス解消の方法についても紹介します。
ストレスとは何か
私たちは普段から何気なく「ストレス」という言葉をよく口にしますが、実は物理学でも「ストレス」という概念があります。理科や物理の授業で学んだ方もいるかもしれません。
物理学におけるストレスとは、「物体のゆがみ」を意味します。たとえばゴムボールを指で押すと、押さえた部分が変形します。この変形した状態が、物理学では「ストレス」と呼ばれるのです。この考え方を医学に応用したのが、オーストリア出身の医師・生理学者ハンス・セリエです。
私たちは日々、外部からさまざまな刺激を受けており、その影響で生理的・心理的な反応が起こります。セリエは、外部からの刺激を「ストレッサー」、それによって引き起こされる反応を「ストレス」と定義しました。
ストレッサーにはいくつか種類があります。たとえば、激しい騒音や極端な温度など身体に直接刺激を与える「物理的ストレッサー」、薬物や有害物質などによる「化学的ストレッサー」、そして対人関係や仕事、家庭の問題などの「心理社会的ストレッサー」です。こうした多様なストレッサーが、私たちにストレスをもたらしています。
人間の身体には、自身を守るための生体防御機構や、生命を維持するためのホメオスタシス(体内環境を一定に保つ仕組み)が備わっています。ストレス反応とは、それらが外部からの刺激によって生じた心身の変化を元の安定した状態に戻そうとする働きです。
しかし、適応できる以上のストレッサーが長く加わると、元の状態に戻せず、過度なストレスが生じます。その結果、心身にさまざまな変化が起こり、場合によっては病気の原因になることもあるのです。

画像素材:PIXTAストレスはどんな影響を与えるのか
では、ストレッサーによって私たちにストレス反応が起こると、心や身体にはどのような変化が現れるのでしょうか。
たとえば、「ストレスで衝動買いやドカ食いが増えた」「ストレス性の下痢が続いている」といった経験をしたことがある人は少なくないでしょう。これは、ストレスによる防御反応の一つです。身体はこうした行動を通じて、自分がストレスを感じていることを知らせています。
こうした行動によってストレスが適度に解消されれば、影響は一時的なものに留まります。しかし、そもそもストレス解消の方法が限られていたり、周囲からの理解や適切なサポートが得られなかったりすると、こうした心理的・身体的な反応が慢性的に続いてしまうことがあります。過食や大量飲酒、喫煙などもその一例です。
こうした状態が長期的に続くと、心身にさまざまな不調を引き起こし、最終的にはストレス関連疾患につながる可能性を高めます。日々のストレスが積み重なることで、心身の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があるのです。
ストレスと関連する疾患
ストレス関連疾患には、具体的に以下のようなものがあります。
- 高血圧、脳卒中、虚血性心疾患などの心血管疾患
- 胃痛や下痢・便秘などの消化器症状
- 気管支喘息、過換気症候群などの呼吸器疾患
- 不眠などの睡眠障害
- 拒食症、過食症などの摂食障害
- 慢性腰痛、頭痛、肩こり、筋肉痛 急性ストレス障害やパニック障害などの精神疾患
さらに、ストレスによって過食や飲酒量の増加、運動不足といった生活習慣の乱れが続くと、肥満やメタボリックシンドロームを招き、それらが高血圧や糖尿病、心血管疾患のリスクを高めることもあるため、ストレスはまさに「万病のもと」とも言える存在です。
ストレスが脳に与える影響
ストレスの影響は心身だけでなく、脳にも及びます。脳も身体の一部であるため、身体に不調が生じれば、脳の状態にも影響が出るのは自然なことです。
これまで見てきたように、ストレスを受けている状態とは、外部からの刺激(ストレッサー)に反応し、元の状態に戻ろうとする心身の反応のことを指します。ただし、ストレスは必ずしも脳にとって悪いものだけではありません。
たとえば、「仕事で大事なプレゼンをおこなう」「学生時代に部活の大切な大会に出場したとき」など、緊張感のある状況下で普段以上に集中でき、良い成果を出せたことがある方も多いのではないでしょうか。このような場面では、適度な心理的ストレスが一時的に脳を活性化させ、集中力やパフォーマンスを高めていると考えられています。
ただし、このような効果は短期的なストレスに限られます。プレゼンや大会が終わればストレスは解消され、脳は元の状態に戻ります。しかし、慢性的なストレスが続くと、脳本来の働きが阻害され、記憶力や判断力などのはたらきに悪影響を及ぼす可能性があります。

画像素材:PIXTAストレスが認知機能に及ぼす悪影響
慢性的なストレスは、脳全体の健康に負の影響を与えるだけでなく、認知機能にも影響を及ぼすリスクがあります。
私たちは日々、五感を通じてさまざまな情報を取り入れています。その情報を脳が統合することで、現在の状況を「現実」として認識しています。この一連の働きは「認知機能」と呼ばれ、記憶力や言語能力、判断力、計算力、そして計画的に行動する遂行力などが含まれます。これらの認知機能が正常に働くことで、私たちは環境に適応し、日常生活や社会生活をスムーズに営むことができるのです。
ところが、この認知機能はストレスによって適切に働かなくなることがあります。たとえば、ストレスがたまっているときに「お会計で小銭の計算がうまくできない」「会話中に適切な言葉が出ず、話が詰まる」といった経験をしたことがある人もいるでしょう。これらはストレスによって認知機能が低下した結果と考えられています。
一時的なものであれば回復しますが、こうした状態が続くと、「なんとなくぼんやりする」「ミスが増えた」といった形で生活に支障が出てくることもあります。このように、ストレスが脳に及ぼす負の影響は非常に大きいのです。
長期的なストレスが認知症リスクを高める
さらに、長期間にわたる慢性的なストレスは、認知症のリスクを高めることも知られています。前提として、認知症とは「疾患や身体トラブルによって認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態」の総称です。
一時的なストレスによる認知機能の低下は通常回復しますが、特に高齢の場合、慢性的なストレスによって脳が長期間、十分に本来の力を発揮できない状態が続くと、認知症へ移行するリスクが高まります。
また、先に紹介したストレス関連疾患は、認知症の発症リスクを高めることが知られており、ストレスは直接的にも間接的にも認知症のリスク要因になる可能性があるのです。
日常でできるストレスセルフチェック
これまで見てきたように、ストレスは心身だけでなく脳にもさまざまな影響を及ぼします。しかし、ストレスは知らず知らずのうちに蓄積していくことが多く、気づかないうちに負担が大きくなってしまうことも少なくありません。ストレスがかかっている状態は、決して「当たり前」の状態ではありません。早めに気づき、解消につなげることが大切です。
ここでは、日常生活で簡単にできるストレスセルフチェックのポイントを紹介します。以下の項目にいくつか当てはまる場合は、過度なストレスがかかっている可能性があります。自分にどんなストレスがかかっているのか、どのようなケアが必要かを見直すきっかけにしてみましょう。
- 最近、疲れが取れにくい
- 頭痛や肩こり、腰痛が増えている
- 睡眠の質が低下している、寝つきが悪い
- イライラしやすくなった
- 不安や落ち込みを感じやすい
- 些細なことで悲しくなる、やる気が出ない
- 食欲が増えすぎたり、逆に減っている
- 記憶力の低下や、物事を忘れやすくなった
- 人と会うのが億劫になった
- 他人の言動が気になり、過剰に反応してしまう

画像素材:PIXTA今日からできるストレス解消法
前章のストレスチェックでいくつか項目に当てはまった場合は、過剰なストレスがかかっている可能性があります。そんなときには、早めにストレスを解消することが、心身の健康を維持するうえで大切です。
ここでは、日常で取り入れやすいストレス解消法のポイントをご紹介します。ストレスを放置せず、日常の中で少しずつケアすることが、心身の健康を守る第一歩になります。
ストレス解消に大切なこと
基本的に、ストレスがかかっている状態とは、外部から負荷がかかっている状態です。まずはできるだけ心身を元の安定した状態に戻すことが基本となります。
そのため、ストレス解消では無理な負荷をかけないことを意識することが大切です。たとえば、「ストレスがたまったらたくさん食べる」「サウナでリフレッシュする」といった方法はよく知られていますが、どちらも身体に大きな負担をかける場合があります。こうした点を理解したうえで、自分に合った適切な方法を選ぶことが重要です。
また、ストレスとは自分の力だけで完全にコントロールできないものだと認識することも重要です。人はストレスを感じている自分にさらにストレスを感じてしまうことがあります。しかし、これまで見てきたように、ストレスとは外部からの刺激に対する反応であり、自分だけの責任ではどうしようもないものです。
そのため、ストレスを感じているときは、まずその状態を受け止め、自分を責めずに、少しずつ解消するための行動につなげていくことが大切です。
情報を減らして心を整理する
現代では、多くの人がスマートフォンやテレビ、インターネットなどさまざまなメディアから情報を得ています。しかし、こうした「情報過多」の状態も過度なストレスにつながり、健康に良くない影響を与えることが研究から示されています。
そこでおすすめなのが「デジタルデトックス」です。日常的に膨大な情報にさらされている現代人は、その多くをスマートフォンやパソコンなどのデジタルツールから受けています。デジタルデトックスをおこなうことで、意識的にこれらのツールから離れ、触れる情報量を減らすことができるのです。
ただし、仕事や家庭の事情でデバイスに触れない方がかえってストレスになる場合もあります。そのような場合は、デジタルデトックスをする時間を事前に設定し、デバイスを見なくても支障がない時間帯におこなうことがポイントです。
1日に30分だけでも、あるいは数時間だけでもデジタルデトックスをおこなうと、脳がリフレッシュされ、ストレス解消につながります。意識的に情報量を減らし、心を整理しましょう。
睡眠時間を確保する
睡眠は心身の回復だけでなく、脳の回復の時間でもあります。覚醒時に蓄積された記憶の整理や、脳にたまった老廃物の排出は、睡眠中におこなわれる大切なメンテナンスです。
十分な睡眠をとることで、脳と身体がリフレッシュされ、翌日はすっきりとした気分で一日を過ごせます。また、睡眠はストレスの軽減にもつながる、シンプルで効果的な方法です。特別な費用や道具も必要ありません。
成人の場合、1日に必要な睡眠時間の目安は約7時間とされています。しかし、7時間寝ても疲れが残ったり、日中に眠気が続く場合は、さらに長めの睡眠が必要なケースもあります。あくまで「1日7時間」は目安として、翌日の日中に眠くならない睡眠時間を確保することが、ストレス解消と心身の健康の基本です。
ゆるい運動を続ける
体と心は密接に結びついており、身体にポジティブな刺激を与えることは、心にも良い影響をもたらします。そこで、ストレス解消におすすめしたいのが、「ゆるい運動」です。
ここでいうゆるい運動とは、筋力や体力を強化することを目的とせず、「楽しい」と感じる程度の軽い運動のことです。軽く体を動かすことで、心身のリフレッシュ効果やストレス解消につながります。
運動の種類は特に決まりはありません。興味があるものを試してみるのが一番ですが、運動習慣がない方は軽い散歩やラジオ体操から始めるのがおすすめです。これらは軽く息が弾む程度の負荷で、ケガのリスクも低く、特別な道具や環境がなくても手軽におこなえます。
運動するタイミングにも決まりはありませんが、仕事帰りや朝の時間など、気持ちを切り替えたいと感じる場面で取り入れると効果的です。「毎日30分」など完璧を目指す必要はなく、自分のペースで続けることが大切です。また、ゆるい運動は一度だけでなく、継続しておこなうことで体力維持にもつながります。

画像素材:PIXTA趣味・笑い・音楽などで気分をリフレッシュ
ストレスの原因であるストレッサーから離れ、自分だけの時間に集中することも、ストレス解消に非常に効果的です。悩み続ける状態は、それ自体がストレスとなってしまうため、意識的に気持ちを切り替えて、自分の時間を持つことが大切です。
その時間におすすめなのが、趣味や音楽など、自分が好きなものに触れることです。趣味や音楽への没入は、ストレスの原因に対して必要以上に反応しない助けになり、気分をリフレッシュする効果があります。
また、お笑い動画やコメディを楽しんで思い切り笑うことも、ストレス解消に効果的です。笑うことには心理的・身体的にポジティブな効果があることが明らかになっており、日常的に笑う習慣を持つことは、ストレス解消に直結します。
日々の中で、自分の好きなことに没頭する時間や笑いの時間を意識的に確保することが、心身の健康を守る大切なポイントです。
まとめ
今回は、ストレスの基本的な情報や認知症リスクとの関係性、そして日常でできるストレス解消の方法についてご紹介しました。
私たちは日々、さまざまなストレスにさらされています。避けられないストレスも多く、自分の生活を維持するためにも、ストレスを完全に避けることはできません。だからこそ、大切なのは自分のストレスに気づきやすい環境を整え、効果的な解消法を知ることです。
ストレスは、一時的には認知機能の低下や過食、多量飲酒などの影響をもたらすことがあります。長期的には、脳梗塞などのストレス関連疾患や、さらには認知症などのリスクにもつながる可能性があります。そのため、健康や認知機能を維持するためには我慢しすぎず、適切に対応することが重要です。
特に40代以上の方には、ストレスへの適切な対処に加えて、認知症予防をはじめることをおすすめします。多くの認知症は発症の約10年前から脳内で変化が始まるとされており、早期発見・早期対応が将来の認知症リスクの抑制につながります。
そこで注目したいのが、『認知症と向き合う365』というサービスです。このサービスでは、脳の認知機能セルフチェックに加えて、MRI画像をAIが詳細に分析する「BrainSuite®」がセットになっており、ストレスの多い生活の中でも、脳の些細な変化に気づきやすい環境づくりをサポートします。
早すぎることはありません。日頃から日常の中でストレスと向き合いながら、将来の脳と身体の健康を守る準備を始めましょう。
【参考文献(ウェブサイト)】
- 生労働省(n.d.) 睡眠とストレスの関係. [オンライン]. 2025年12月3日アクセス,
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/health/column-7.html - 厚生労働省(n.d.) 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況. [オンライン]. 2025年12月3日アクセス,
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/index.html - 福島県立医科大学医学部疫学講座(n.d.) 「ストレス」って何?. [オンライン]. 2025年12月3日アクセス,
https://www.fmu.ac.jp/home/epi/recom/recom01.html
【参考文献(書籍)】
- 朝田隆(2023). 認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること. アスコム.
- 加藤俊則(2021). ビジュアル図解 脳のしくみがわかる本. メイツ出版.
- 櫻井武(2017). 睡眠の科学・改訂版. 講談社.
- 杉春夫(2008). ストレスとはなんだろう. 講談社.
- デヴォン・プライス/佐々木寛子(2024). 「怠惰」なんて存在しない. ディスカヴァー・トゥエンティワン.
- 堀田秀吾(2025). 科学的に証明されたすごい習慣大百科. SBクリエイティブ.
この記事の監修者
佐藤俊彦 医師
福島県立医科大学卒業。日本医科大学付属第一病院、獨協医科大学病院、鷲谷病院での勤務を経て、1997年に「宇都宮セントラルクリニック」を開院。
最新の医療機器やAIをいち早く取り入れ、「画像診断」によるがんの超早期発見に注力、2003年には、栃木県内初のPET装置を導入し、県内初の会員制のメディカル倶楽部を創設。
新たに 2023年春には東京世田谷でも同様の画像診断センター「セントラルクリニック世田谷」を開院。
著書に『ステージ4でもあきらめない 代謝と栄養でがんに挑む』(幻冬舎)『一生病気にならない 免疫力のスイッチ』(PHP研究所)など多数。
