トップ > 公式ブログ > 軽度認知障害(MCI)とは?認知症との違いや早期発見のためにできることについて解説

軽度認知障害(MCI)とは?認知症との違いや早期発見のためにできることについて解説

軽度認知障害(MCI)とは?認知症との違いや早期発見のためにできることについて解説の画像
軽度認知障害(MCI)とは?認知症との違いや早期発見のためにできることについて解説の画像
画像素材:PIXTA

現在、日本は世界でも類をみない超高齢社会を迎えており、総人口の約3割が65歳以上の高齢者と推計されています。こうした背景のなかで増加しているのが「認知症」です。

認知症について正しく理解し、できるだけ早い段階から予防に取り組むことは、自分が将来も安心して生きるためになるだけではなく、社会全体の負担を軽くすることにもつながります。 そこで今回の記事では、認知症の前段階とされる「軽度認知障害(MCI)」について、その特徴や認知症との違い、早期発見の方法や対策について解説していきます。

認知症とは?

「認知症」とは、特定の病気を指す言葉ではなく、脳や身体の不調によって認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障がでている状態の総称です。

代表的なものは、アルツハイマー型認知症・脳血管性認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症といった四大認知症ですが、認知症の原因となる疾患は100種類以上あるとされており、症状のあらわれ方もさまざまです。さらに、脳は個人差が大きいため、同じ病気であっても進行のスピードや生活への影響には差があります。

また、「認知症」と呼ばれる状態のなかには、甲状腺機能低下症やビタミン欠乏症など、身体の疾患やトラブルが原因で起きているものも含まれます。このような場合は、原因を治療することで認知機能が回復するケースも少なくありません。 一方、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症のように、脳そのものに病変が生じて引き起こされるタイプの認知症の多くは進行性で、現代の医学では完治が難しいとされています。実際に認知症と診断された人の多くはこのタイプです。

認知症の進行について

前の項でも触れたように、認知症には多くの原因疾患があり、症状のあらわれ方も一様ではありません。そのため、「これが出ていれば認知症」という明確なサインは、実は存在しません。

しかし、認知機能の低下にはある程度の段階があることが知られています。ここからは、認知症の進行段階ごとの特徴や、日常生活でみられる変化について解説していきます。

健常

年齢に見合った認知機能を維持しており、日常生活や社会生活を支障なく過ごせている状態です。

軽度認知障害(MCI)とは?認知症との違いや早期発見のためにできることについて解説の画像
画像素材:PIXTA

主観的認知機能低下(SCD)

主観的認知機能低下(SCD:Subjective Cognitive Decline)とは、認知機能検査やMRIなどの脳画像検査では異常が見つからないものの、本人が「もの忘れが増えた」「頭の働きが鈍った気がする」などの変化を感じている段階です。 認知機能検査では「正常」と判定されますが、将来的に軽度認知障害(MCI)へ移行する可能性があります。しかし、認知機能が回復するケースも少なくなく、必ずしも進行するわけではありません。

軽度認知障害(MCI)

軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)は、本人も周囲も認知機能の低下を感じ、認知機能検査でも実年齢より認知機能の低下が認められるものの、まだ認知症と診断される段階には至っていない状態です。

認知症の前段階であることから「認知症グレーゾーン」と呼ばれることもあり、以下のような変化がよくみられます。

  • 趣味や習い事が億劫になり、意欲が低下する
  • もの忘れの頻度や程度が増える
  • 日付や場所の判断に時間がかかる

軽度認知症

軽度認知症とは、認知機能検査によって認知症相当と判定される水準まで認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障があらわれ始めた段階です。

これまで普通にできていたことに少しずつ困難を感じ始め、周囲も違和感に気づきやすくなります。主に以下のような変化がみられるようになります。

  • 通帳や財布など大切な物をなくし、周囲を疑う
  • 数分前の出来事を繰り返し話したり、たずねたりする
  • 日付や曜日が思い出せなくなる

中等度認知症

中等度認知症になると、認知機能の低下がさらに進み、歯磨き・着替え・食事などの基本的な生活動作にも介助やサポートが必要になってきます。この段階になると、家族だけでサポートすることが難しくなり、介護サービスの導入や住環境の整備が必要になるケースが多くなります。

この段階では、以下のような変化がみられるようになります。

  • 外出先から一人で帰れず、道に迷ってしまう
  • 季節感がわからず、真冬に薄着、真夏に厚着をしてしまう
  • 言葉が出にくくなり、意味の通らない表現が増える

重度認知症

重度認知症では、記憶力・判断力・言語能力などの高次の認知機能が大きく損なわれ、身体機能にも影響が及びます。座っている姿勢を保つことも難しくなるなど、生活全般にわたって全面的な介護が必要になることが多い段階です。

この段階では、以下のような変化がみられるようになります。

  • 配偶者や子どもを認識できず、知らない人と判断する
  • 話す言葉が極端に少なくなり、発言が減る
  • 歩行や着座といった基本動作ができず、ほとんどの時間を寝て過ごす
軽度認知障害(MCI)とは?認知症との違いや早期発見のためにできることについて解説の画像
画像素材:PIXTA

軽度認知障害(MCI)と認知症はどう違う?

軽度認知障害(MCI)は、認知症の前段階にあたる状態です。年齢相応以上の認知機能の低下が見られるものの、まだ認知症とは診断されるほどではなく、「認知症の兆候はあるが認知症ではない」段階ともいえます。

しかし、軽度認知障害(MCI)と初期の軽度認知症は連続しており、明確な境界線があるわけではありません。大きな区別の目安となるのは、「日常生活や社会生活に支障があるかどうか」です。

もっとも、この「支障」の程度は、その人がどのような生活を送っているかによって変わるため、非常に個人差が大きいということも事実です。たとえば、仕事や家事、地域活動など、複雑な社会生活を送っている人ほど、認知機能の低下による影響が早くあらわれやすい一方で、変化が少ない生活をしている人は、症状がある程度進行してから初めて影響が目立つこともあります。

軽度認知障害(MCI)から認知症へ進行するリスクはどのくらい?

軽度認知障害(MCI)の人がそのまま認知症へ進行する割合は、年間でおよそ10〜15%と報告されています。5年間でみると、約半数が認知症へ進行するともいわれており、決して珍しいことではありません。

一方で、軽度認知障害(MCI)になった人が全員認知症に進行するわけではありません。軽度認知障害(MCI)と診断された人の4人に1人は、生活習慣の改善やリハビリテーションなどによって認知機能が回復し、正常な状態に戻ったというデータもあります。

軽度認知障害(MCI)のうちに早期発見するメリット

認知症対策においては、できるだけ早く変化に気づき、適切な対応につなげることが非常に重要です。前述の通り、軽度認知障害(MCI)の段階で早期発見し、適切なケアや生活習慣の改善をおこなうことで、4人に1人は認知機能が健常レベルまで回復したという報告もあります。

たとえ認知機能が健常レベルまで回復しなくても、症状が軽いうちに見つけることで、投薬やリハビリによって症状の進行速度を抑えたり、日常生活への影響を最小限に抑えたりすることが可能です。また、車の運転や公共交通機関の利用など、一人でおこなうことが難しくなる行動に対して事前にサポートの準備ができるため、本人だけではなく家族の負担も軽減できます。

さらに、認知機能がまだ十分に保たれている段階であれば、相続や介護の方法、終末期医療(ターミナルケア)など、将来に関わる重要な決定を本人が自ら選択できます。これにより、後々のトラブルを防ぎやすくなります。 加えて、介護が本格的に必要になるまでの時間に余裕ができるため、自宅のリフォームや各種申請などの準備を焦らず計画的に進めることが可能です。このように、早期発見は本人・家族の両方にとって多くのメリットがあります。

軽度認知障害(MCI)とは?認知症との違いや早期発見のためにできることについて解説の画像
画像素材:PIXTA

軽度認知障害(MCI)に早期に気づくには

ここからは、軽度認知障害(MCI)に早期に気づくための方法を紹介していきます。

比較的取り組みやすいものを中心にまとめていますので、「最近、もの忘れが増えたかも」「そろそろ認知症が気になる」という方は参考にしてみてください。

なお、既に認知症の可能性がある、あるいは認知症のような症状がみられる場合は、この後に解説する「認知症を早期発見するためにできること」の章をご覧ください。

簡易チェックリストの活用

脳の働きには個人差があるため、認知機能の低下による「変化」も人によって異なります。とはいえ、日常生活で少しずつ難しくなることには、ある程度共通したパターンがあります。

以下のような場面が複数当てはまる場合は、軽度認知障害(MCI)のサインが隠れている可能性があります。その際は、専門機関での相談や受診を検討してみてください。

  • 同じ質問や話を何度も繰り返す
  • ATMや洗濯機などの操作に時間がかかり、まごつくようになった
  • 今しようとしていたことをすぐに忘れる
  • 料理や家事が面倒に感じたり、時間がかかったりするようになった
  • 趣味や習い事などへの意欲が低下している
  • 怒りっぽくなったり、疑い深くなったりしてきた
  • 外出が減り、家にこもることが増えた

認知機能セルフチェックツールの活用

脳は20歳前後まで成長を続けるとされていますが、30歳前後から少しずつ容量が減少し始め、65歳前後には目に見えるほど萎縮するといわれています。これが「脳の老化」です。

老化による脳の萎縮は避けられませんが、認知機能は使い続けることで衰える速度を遅らせられることが複数の研究で示されています。そのため、定期的に認知機能をチェックし、年齢に比べて不自然な低下がないかを確認することが、軽度認知障害(MCI)や認知症の早期発見につながります。

近年では、電話やオンラインで気軽に受けられる認知機能のセルフチェックツールも増えており、忙しい人でも利用しやすいものが多くあります。特に、さまざまな疾患や心身の不調が増えるとされる50歳以降は、自分の脳の健康状態を把握するためにも定期的な認知機能のチェックをおすすめします。

『認知症と向き合う365』の活用

軽度認知障害(MCI)の早期対策には、『認知症と向き合う365』の活用が有効です。

『認知症と向き合う365』は、認知症に早くから備えるために生まれたサービスです。脳の認知機能チェックに加えて、MRI画像をAIで解析する「BrainSuiteⓇ」など、脳の状態を詳しく確認できる検査が揃っています。 また、MRI検査は全国の提携医療機関で受けられるほか、心理士や医師などの専門スタッフに直接相談できる体制も整っています。「そろそろ認知症対策を始めてみようかな」という方におすすめのサービスです。

軽度認知障害(MCI)とは?認知症との違いや早期発見のためにできることについて解説の画像
画像素材:PIXTA

認知症を早期発見するためにできること

ここからは、「認知症の可能性があるか心配」という方に向けて、早期発見のためにできることを紹介します。

認知症は、症状が軽いうちに気づいて対応することで、症状の進行を遅らせたり、生活への影響を最小限に抑えたりすることが可能です。

そのため、「もしかして認知症かも?」と感じた場合は、ためらわずに専門機関に相談することが大切です。甲状腺機能低下症やビタミン欠乏症、うつ病など、身体の疾患や不調が原因で認知症の症状がでている可能性もあるため、早めに確認することが安心につながります。

かかりつけ医への相談

かかりつけ医がいる場合は、「もしかして認知症かも?」と感じたことを、実際に起きた出来事や感じたことと合わせて相談してみましょう。

普段の様子をよく知っているかかりつけ医は、ちょっとした変化にも気づきやすく、それが認知症によるものか、別の原因によるものかを冷静に判断してくれます。

相談するときは、たとえば「最近、こんなもの忘れが増えた」「外出先で場所がわからなくなった」など、具体的な困りごとを「いつ・どこで・どんなときに」と事前に記録して伝えるとスムーズです。

必要に応じて、より詳しい検査が受けられる医療機関を紹介してもらえるため、まずはかかりつけ医に相談してみると安心です。

軽度認知障害(MCI)とは?認知症との違いや早期発見のためにできることについて解説の画像
画像素材:PIXTA

もの忘れ外来の受診

かかりつけ医がいない場合は、認知症や軽度認知障害(MCI)の診断を専門的におこなう「もの忘れ外来」の受診がおすすめです。

もの忘れ外来では、問診や認知機能検査など複数の検査を組み合わせ、認知症や軽度認知障害(MCI)の可能性がないか多角的に調べます。

全国の脳神経外科・脳神経内科・老年科・内科・精神科などで受診できるため、地域を問わず利用しやすいのも大きな利点です。

地域包括支援センターの活用

「もの忘れ外来を受けるほどか分からない」「どの医療機関を受診すればいいか分からない」といった場合は、地域包括支援センターに相談してみてはいかがでしょうか。

地域包括支援センターは、高齢者やその家族の生活全般を支援する公的な相談窓口で、保健師・看護師・社会福祉士などの専門スタッフが在籍しています。必要に応じて、地域の医療機関や利用可能な支援サービスを紹介してくれるため、不安を抱えているときに頼りになる存在です。

また、公的機関なので費用がかからないのも安心ポイントです。おおむね中学校区ごとに設置されているので、まずは自宅近くの地域包括支援センターを調べてみるとよいでしょう。

まとめ

今回は、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)と、その早期発見対策について解説してきました。

自分自身はもちろん、家族や親も年齢を重ねるなかで、できるだけ早い段階から認知症を理解して備えておくことが、これからの生活の質を守るうえで大切です。

老化やそれにともなう認知機能の低下は、誰にでも訪れる自然な変化です。避けられない現実だからこそ、「いつか来るかもしれない」と考え、今できることから取り組むことが重要です。自分だけではなく、家族にとっても安心できる未来を築くために、今から備えていきましょう。


【参考文献(ウェブサイト)】

【参考文献(電子ジャーナル)】

【参考文献(書籍)】

  • 秋下雅弘(2023). 目で見てわかる認知症の予防. 成美堂出版.
  • 朝田隆(2023). 認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること. アスコム.
  • 朝田隆(2025). 軽度認知障害(MCI)がわかる本. 講談社.
  • 旭俊臣(2022). 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症. 幻冬舎.
  • 加藤俊徳(2021). ビジュアル図解 脳のしくみがわかる本. メイツ出版.
  • 長尾和宏(2023). コロナと認知症~進行を止めるために今日からできること~. ブックマン.

この記事の監修者

佐藤俊彦 医師

佐藤俊彦 医師

福島県立医科大学卒業。日本医科大学付属第一病院、獨協医科大学病院、鷲谷病院での勤務を経て、1997年に「宇都宮セントラルクリニック」を開院。
最新の医療機器やAIをいち早く取り入れ、「画像診断」によるがんの超早期発見に注力、2003年には、栃木県内初のPET装置を導入し、県内初の会員制のメディカル倶楽部を創設。
新たに 2023年春には東京世田谷でも同様の画像診断センター「セントラルクリニック世田谷」を開院。
著書に『ステージ4でもあきらめない 代謝と栄養でがんに挑む』(幻冬舎)『一生病気にならない 免疫力のスイッチ』(PHP研究所)など多数。