認知症の検査って何があるの?それぞれの検査の特徴や検査費用についても解説

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高齢化が進む現代日本では、認知症は誰にとっても身近な課題になりつつあります。昨今、予防や生活習慣の見直しなど、早いうちから対策に取り組む方も増えてきました。
しかし、「認知症の検査はどこで受けられるのか」「認知症の検査にはどのくらい費用がかかるのか」を具体的に知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。
認知症の検査費用は受ける検査の種類・組み合わせによって大きく変わるため、思った以上に費用がかかるケースも少なくありません。いざというときに慌てないためにも、あらかじめ検査内容や費用感を知っておくことは大切です。
そこで今回の記事では、認知症検査の基本的な情報と代表的な検査の特徴、そして費用の目安についてわかりやすく解説していきます。
認知症検査でわかること
認知症かどうかの判定
認知症は、特定の病気を指すのではなく、「脳の病気や身体の異常によって認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたしている状態」を総称したものです。
そのため、検査では、記憶力や判断力の低下の程度に加え、脳や身体にみられる変化を幅広く調べます。
たとえば、脳の萎縮は加齢でも起こる自然な老化のひとつです。一方で、代表的な認知症の原因疾患であるアルツハイマー病などは、症状が進むと海馬など特定の部位の萎縮が目立つことがあります。こうした違いを見極めるために、問診や認知機能検査・画像検査など複数の検査を組み合わせ、総合的に認知症かどうかを判定します。
認知症のタイプ
認知症は、原因となる病気によっていくつかのタイプに分けられます。たとえば、アルツハイマー病が原因の場合は「アルツハイマー型認知症」、脳血管障害が原因の場合は「血管性認知症」と呼ばれます。
原因疾患によって、症状の進み方や適切なケアの方法が異なるため、検査では「どのタイプの認知症か」を見極めることがとても重要です。
また、認知症のタイプによって、脳の変性のあらわれ方や、認知機能への影響も異なります。そのため、認知症検査ではひとつの検査だけではなく、複数の検査を組み合わせて、より正確に認知症のタイプを判定します。
認知症の進行状態
認知症にはいくつかの段階があります。大まかに言うと、認知症が発症する前から段階的な兆候があり、発症後、徐々に症状が進行していくという流れです。
進行の程度によって、必要な治療や介護の内容が大きく変わるため、検査で現状を正しく把握することが重要です。具体的には、以下のように段階が分かれています。
- 主観的認知障害(SCD):物忘れの自覚があるが、日常生活に支障がない
- 軽度認知障害(MCI):本人や周囲が認知機能の低下を感じているが、日常生活に大きな支障はでていない
- 軽度の認知症:もの忘れや計算の困難などが目立ち、日常生活・社会生活に支障がでているものの、着替えや入浴などの基本的な生活動作は一人でできている
- 中等度の認知症:時間や場所がわからなくなる見当識障害や徘徊などがみられ、基本的な生活動作にも介助が必要
- 重度の認知症:配偶者や家族の区別ができず発言や表情も乏しくなり、歩行や座位の維持も困難なことから日常生活のほとんどで介助が必要
現在の進行状態を知ることで、治療やケアの方針が立てやすくなるだけではなく、今後必要となる介護体制や費用の見通しも立てやすくなります。

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認知症検査を受診するタイミング
認知症検査を受けるタイミングは、多くの人が迷うところです。実際、何らかの異変を感じてから医療機関で認知症の診断が下るまでに、平均で約4年かかっているというデータもあります。
では、いったいどのようなときに認知症検査を受けるべきなのでしょうか。
認知症は、年齢に関係なく発症することがあります。そのため、これまで普通にできていたことが急にできなくなった、あるいは、時間がかかるようになったといった変化を感じたときが、認知症検査を受けるひとつの目安です。
特に、認知症は早期に発見し、適切な対応につなげることでその後の生活の質が大きく変わってきます。気になることがあれば、なるべく早めに受診することをおすすめします。
認知症の検査を早期に受診するメリット
多くの病気で早期発見・早期対応が非常に重要とされています。認知症も例外ではなく、「何かおかしいな?」と感じたら、できるだけ早く検査を受けることが重要です。
ここからは、認知症検査を早期に受診することで得られるメリットについて紹介していきます。
進行を遅らせることができる
認知症は、発症前の「主観的認知障害(SCD)」や「軽度認知障害(MCI)」の段階で早期に発見できれば、生活習慣の改善や適切な治療によって認知機能の回復や、発症を遅らせられる可能性があります。
実際にMCIと診断された方のうち約4人に1人は、認知機能が健常レベルまで回復しているというデータもあります。また、SCDの段階から生活習慣の改善・健康状態の向上に取り組むことで、認知機能を回復させたり、認知症の発症を遅らせたりできる可能性が高くなることがいくつもの研究から明らかになっています。
このように早期段階で発見することが望ましいですが、認知症がすでに発症している場合でも、認知症のタイプや進行状態を正確に把握することで、投薬やリハビリなどにより症状の進行を抑えることが期待できます。
介護の計画に余裕が持てる
認知症にならないことが理想ではありますが、実際には誰にでも認知症になるリスクがあります。発症した場合、個人差はあるものの平均余命は5年から12年程度とされており、認知症と共に過ごす時間はかなり長くなる傾向があります。
そのため、できるだけ早期に発見することで、その後の介護や生活の計画を立てる時間に余裕が生まれます。早めに準備を始めることで、本人も家族も安心して将来に備えることができるでしょう。

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認知症検査の種類
ここからは、実際に認知症検査でおこなわれる代表的な検査について紹介していきます。 認知症は、症状のあらわれ方や生活への影響の範囲に個人差が大きいため、1つの検査だけで判断することは難しく、複数の検査を組み合わせて総合的に判定するのが一般的です。
問診
認知症検査においても、ほかの病気の検査と同様に問診は欠かせません。
問診では、現在困っていることや、これまでの変化について詳しく聞き取ります。認知症は、身体や脳に目に見える変化があらわれにくいことから、問診でていねいに現状を把握することが、認知症の種類や進行状況を判断するうえで非常に重要となります。
認知機能検査
一般的に、認知機能は加齢によって自然に低下しますが、認知機能検査では、その低下が認知症のレベルにまで達しているかどうかを調べます。医師の質問に口頭で答える形式が多く、受診者の負担が少ないのが特徴です。
代表的な認知機能検査には、以下のようなものがあります。
- ミニメンタルステート検査(MMSE):国際的な認知症スケールで、記憶・注意・計算などの複数の認知領域を対象に、全11項目を合計30点満点で採点します。その点数から認知機能の状態を評価します。
- 長谷川式認知症評価スケール(HDS-R):より日本人向けに開発された認知症検査スケールで、記憶・見当識(時間・場所など)・計算をはじめとした多面的な認知機能を、全9項目、合計30点満点で採点します。その点数から認知症の疑いがないかチェックします。
身体検査
認知症の症状は、脳の問題だけではなく、身体の病気やトラブルによっても引き起こされることがあります。そのため、認知症の診断時には身体検査も欠かせません。
実際に、「会話の内容がちぐはぐになってきたので認知症検査を受けたら、耳垢が詰まって聴力が低下していただけで、耳掃除をしたら症状が改善した」というケースもあります。
特に高齢者では、聴覚や視覚の低下、身体の不調が原因で認知機能が低下することも多いため、身体検査もあわせておこなわれます。
血液検査
多くの場合、認知症の検査では血液検査もおこなわれます。ビタミン欠乏症や甲状腺機能低下症など、身体の異常が原因で起こる「治る認知症」の可能性を確認するためです。
さらに、認知症は高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病と深く関係していることが知られています。そのため、血液検査は単に認知症かどうかを判断するものではなく、生活習慣病の有無や程度を評価し、現在の認知機能との関連性を把握する重要な手がかりとなります。

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画像検査
認知症検査において、脳の画像検査は欠かせない重要な検査のひとつです。脳画像検査によって、正常圧水頭症などの治療可能なタイプの認知症の可能性を除外することや、脳の器質的変性から認知症のタイプをより詳細に調べることができます。
認知症検査に用いられる画像診断にはさまざまな種類があり、それぞれ特性が異なるため、医師がより適切だと判断したものでおこなわれることが一般的です。
以下のような画像検査があります。
- CT(コンピューター断層撮影):X線で頭部を多方面から撮影し、脳を断層像として画像化します。おもに、正常圧水頭症や、腫瘍などの脳の器質的病変を確認するために用いられます。
- MRI(磁気共鳴画像法):強力な磁場と電波で、脳の構造を画像化します。萎縮が進んでいる脳の部位や、脳腫瘍や脳出血などの脳血管の異常を確認できます。
- SPECT(単一光子放射断層撮影):脳の血流分布を画像化します。血流パターンの違いから、現在脳に起きている変化がどの病気によるものなのかを識別できます。
- FDG-PET(フルオロデオキシグルコースPET):特殊な薬剤を用いて、脳の代謝機能を画像化します。神経細胞の機能低下が代謝の低下として現れます。
- アミロイドPET:アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβの蓄積を画像化します。早期診断や臨床研究にも活用されます。
- タウPET:神経細胞内に蓄積するタウたんぱくを画像化します。進行度の把握や病態の理解に役立ちます。
脳脊髄液検査
認知症の判定に用いられるバイオマーカー検査(生物学的指標検査)のひとつに「脳脊髄液検査」があります。腰から脊髄液を採取し、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβやタウたんぱくの量を調べることで、アルツハイマー型認知症の可能性や進行度を判断します。
身体への負担が比較的大きいことや、検査を受けられる医療機関がまだ限られていることから、医師が必要と判断した場合のみ実施されます。
認知症検査の費用について
ここで紹介する費用はあくまで目安のため、医療機関によって検査項目や料金設定、保険適用の可否が異なります。保険適用は医師が「診断に必要」と判断した場合が基本であり、症状がない状態で自主的に受ける脳ドックや健診は、自由診療(全額自己負担)の扱いとなります。
また、認知症検査は複数の検査を組み合わせて総合的に判断するのが一般的です。そのため、実際の費用は受ける検査内容や検査数、医療機関によっても異なります。
費用面が不安な場合には、認知症検査を受ける医療機関にあらかじめ確認してみましょう。
検査の種類 | 10割負担 (保険適用外/自由診療の目安) | 3割負担 (保険適用時の目安) |
認知機能テスト | 数百円~数千円程度 | 数百円~1千円程度 |
血液検査 | 数千円~1万円程度 | 数千円程度 |
CT検査 | 1.5万円~3万円程度 | 数千円~1万円程度 |
MRI検査 | 2.5万円~5万円程度 | 数千円~1万円程度 |
SPECT検査 | 6万円~10万円程度 | 3万円程度 |
FDG-PET検査 | 8万円~15万円程度 | 保険適用外 |
アミロイドPET検査 | 30万円~60万円程度 | 7~10万円程度(※) |
タウPET検査 | 30万円~60万円程度 | 保険適用外 |
脳脊髄液検査 | 3万円~5万円程度 | 数千円程度~1.5万円程度 |
(※)アルツハイマー病による軽度認知障害又は軽度の認知症が疑われる患者等に対し、効能又は効果としてアルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制を有する医薬品の投与の要否を判断する目的でアミロイドβ病理を示唆する所見を確認する場合に、患者1人につき1回に限り算定する。ただし、効能又は効果としてアルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制を有する医薬品の投与中止後に初回投与から18か月を超えて再開する場合は、さらに1回に限り算定できる。

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認知症検査に関するよくある質問
認知症の検査は何科に行けばいいですか?
認知症検査は、おもに神経内科・脳神経外科・老年科・精神科などの専門外来で受けることができます。科が分かれているのは、認知症の症状がどのような原因によって引き起こされているかによって、治療や対応が異なるためです。
かかりつけ医がいる場合は、認知症検査を受けたい旨を相談のうえ、専門の医療機関を紹介してもらうとスムーズです。
一方、かかりつけ医がいない場合は、お住まいの地域にある「地域包括支援センター」に相談するとよいでしょう。地域包括支援センターは、おおむね中学校区ごとに設置されており、高齢者とその家族の生活全般に関する相談を受け付けている公的機関です。適切な医療機関の紹介もしてもらえるので、ぜひ活用してください。
認知症検査にかかる費用の平均はどのくらいですか?
認知症検査の費用は、受ける検査の内容や保険適用の有無によって大きく変わります。
たとえば、保険適用で「問診+認知機能検査」のみなら数千円程度ですが、「問診+認知機能検査+画像検査」までおこなうと、数千円から数万円になることもあります。
費用が気になる場合は、地域包括支援センターや自治体の福祉課に相談してみましょう。自治体によっては、公的な支援や助成で検査を受けられる場合があります。
まとめ
今回の記事では、認知症検査の概要と費用の目安について解説してきました。
認知症を早期発見することは、本人はもちろん家族にとっても大きなメリットがあります。「もしかして認知症かも?」と思ったら、ためらわずに検査を受けることをおすすめします。費用が不安な場合は、公的機関への相談も有効です。
また、症状が出ていない段階から定期的に認知機能をチェックすることも大切です。そこでおすすめなのが、『認知症と向き合う365』です。このサービスは、認知症を悲観せずに「向き合う」ことから生まれた認知症対策サービスです。AIによるMRI画像解析で脳の状態を数値化する「BrainSuite®」や、脳の認知機能セルフチェッカーがセットになっており、定期的に脳の状態をチェックすることで、異変に気づきやすくなります。
近年、認知症は「脳の生活習慣病」とも呼ばれ、生活習慣の改善が予防の重要なポイントとされています。早い段階から生活習慣を見直し、脳の健康状態を把握する習慣をもつことで、将来の安心につながります。 これからの人生をより豊かに、そして大切に生きるためにも、まずは認知症について知り、認知症と向き合うことから始めてみましょう。
【参考文献(ウェブサイト)】
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【参考文献(書籍)】
- 秋下雅弘(2023). 目で見てわかる認知症の予防. 成美堂出版.
- 朝田隆(2023). 認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること. アスコム.
- 旭俊臣(2022). 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症. 幻冬舎.
- 医学通信社(2025). 診療点数早見表 2025年4月増補版. 医学通信社.
- 北原逸美/ながさき一生(2025). 認知症の教科書 増補改訂版. ニュートン.
- 佐藤俊彦(2015). 認知症の画像診断 第一人者が語る ボケは止められる!. 星雲社.
- 長尾和宏(2023). コロナと認知症~進行を止めるために今日からできること~. ブックマン.
この記事の監修者

佐藤俊彦 医師
福島県立医科大学卒業。日本医科大学付属第一病院、獨協医科大学病院、鷲谷病院での勤務を経て、1997年に「宇都宮セントラルクリニック」を開院。
最新の医療機器やAIをいち早く取り入れ、「画像診断」によるがんの超早期発見に注力、2003年には、栃木県内初のPET装置を導入し、県内初の会員制のメディカル倶楽部を創設。
新たに 2023年春には東京世田谷でも同様の画像診断センター「セントラルクリニック世田谷」を開院。
著書に『ステージ4でもあきらめない 代謝と栄養でがんに挑む』(幻冬舎)『一生病気にならない 免疫力のスイッチ』(PHP研究所)など多数。