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すぐ忘れるのは認知症かも?認知症の初期症状や早期発見のポイントを解説

すぐ忘れるのは認知症かも。認知症の初期症状や早期発見のポイントを解説の画像
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画像素材:PIXTA

「パソコンを立ち上げたのに、何をしようとしていたか思い出せない」、「家を出たあとにガスの元栓を閉めたか不安になる」など、「すぐ忘れる」もの忘れを経験したことがある方は多いのではないでしょうか。こうした一時的な記憶の抜け落ちは、日常生活の中で誰にでも起こりうるごく身近な現象です。

とはいえ、こうしたことが頻繁に起きるようになると、「もしかして認知症かも?」と不安になるかもしれません。実際には、疲労や睡眠不足・ストレスなど、体や心のコンディションの乱れにより、こうしたもの忘れが引き起こされることがあります。

今回は、このような「すぐ忘れる」もの忘れの主な原因や認知症との違い、不安を感じたときにできる対応について紹介していきます。

すぐ忘れる原因とは?

もの忘れが増えると、「自分は大丈夫なのかな?」と不安になることもあるかもしれません。特に、さっきまで考えていたことをすぐに忘れた、人の名前や用件が思い出せないなど、ちょっとしたもの忘れが続くと不安になってしまうのも自然なことです。

私たちの「記憶」には、大きく分けて2つのタイプがあります。それが「短期記憶」と「長期記憶」です。

新しい情報は、まず脳の海馬に送られます。海馬は、短期記憶として情報を一時的に保持すると同時に、記憶の中から重要な情報を選び出し、大脳皮質へと送り出す「記憶の司令塔」のような役割を担っています。

短期記憶とは、海馬に一時的に保存される記憶のことで、短期間だけ覚えておく働きのことを指します。たとえば、「電話番号を聞いてすぐにダイヤルする」「説明書を見ながら家電を操作する」といった行動がこれに当てはまります。

この短期記憶の中でも重要と判断された情報は、海馬から大脳皮質の各領域に移され、時間をかけて長期的に記憶として定着していきます。これが長期記憶です。たとえば、「小学生のころに覚えた九九を今でも言える」「久しぶりの実家への道順を覚えている」といった、繰り返し使われた記憶が長く保持されるのは、この仕組みによるものです。

さらに、海馬は、体験に基づく記憶(エピソード記憶)を形成・想起する際にも重要な働きを担っています。もし海馬が損傷すると、このような記憶がうまく機能しなくなることもあります。また、記憶は時間の経過とともに海馬から大脳皮質へと移行し、安定していくという「記憶の固定化」の過程もあります。

「すぐ忘れる」と感じるときは、多くの場合、この海馬を中心とした短期記憶の働きがうまくいっていない状態と考えられます。このような状態は、疲労、ストレス、睡眠不足、水分不足などの心身の不調がきっかけになることも少なくありません。

ここからは、「すぐに忘れる」もの忘れが起きる主な原因について解説していきます。

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すぐ忘れる原因①一時的なストレスや疲労

心身の疲労や過度なストレスは、記憶力の一時的な低下を引き起こすことがあります。

たとえば、「さっき読んだニュースの内容を思い出せない」「何を取りに冷蔵庫を開けたか忘れてしまった」といった、ついさっきのことをすぐ忘れる「うっかり」は、疲れがたまっているときによく見られるものです。

このようなもの忘れは、しっかりと休息をとることで自然に回復することがほとんどです。長期間にわたって改善が見られない場合を除けば、過度に心配する必要はありません。

すぐ忘れる原因②加齢による記憶力の低下

年齢を重ねると、記憶を保つ力や情報処理のスピードが徐々に低下し、ついさっきのことをすぐ忘れてしまうことがあります。たとえば、「スマホを手に取ったのに、何をするつもりだったのか忘れた」「数分前に聞いた用事や頼まれごとを忘れた」といった経験が増えるかもしれません。

しかし、「時間が経つとふと思い出す」「周囲から指摘されて思い出せる」といった場合には、加齢による自然な記憶力の変化と考えられます。このようなケースでは、あまり神経質になる必要はありません。

すぐ忘れる原因③生活習慣が乱れている

睡眠不足や過度の飲酒、不規則な生活なども記憶力に影響を及ぼす要因です。生活習慣が乱れると脳の働きが鈍り、短期記憶や集中力の低下につながります。また、精神的な不安定さや感情のコントロールが難しくなったりすることで、もの忘れが目立つことがあります。

こうした場合でも、生活習慣を見直し、十分な睡眠・バランスの取れた食事・適度な運動を心がけることで記憶力が改善されることがあります。ただし、長期にわたって生活習慣が乱れていた場合は回復までに時間がかかることもあるため、できるだけ早くに見直すことが大切です。

すぐ忘れるのは病気?

前述のように、疲労やストレス・生活習慣の乱れなどが重なることで短期記憶が一時的に低下し、「すぐ忘れる」もの忘れが目立つことがあります。こうした場合は、しっかりと休息を取り、生活習慣を整えることで自然と回復していくことがほとんどです。

また、年齢とともに記憶力がある程度低下するのは自然な変化であり、日常生活に支障がない範囲であれば過剰に心配する必要はありません。

しかし、「すぐ忘れる」「同じことを何度も繰り返す」といった短期記憶の低下が、長期間にわたって続いている場合には注意が必要です。脳の働きに何らかの異常が生じている可能性もあるため、早めに専門の医療機関に相談してみることをおすすめします。

気になる症状を放置せず、早めに受診することで適切な治療やサポートが受けられる可能性が高まります。「年齢のせいかも」「疲れのせいかも」と思い込まず、気になる症状があるときは専門家の意見を聞いてみましょう。

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もの忘れと認知症の違い

これまでみてきたように、「すぐ忘れる」と感じることがあっても、それが一時的なもので回復するようであればあまり心配はいりません。もの忘れは、年齢や体調などさまざまな要因によって誰にでも起こる自然な現象です。

とはいえ、「最近すぐ忘れることが増えて心配」「年齢的に認知症の可能性もあるのでは」といった不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実際、「すぐ忘れる」といった短期記憶の低下は、認知症の初期に見られる代表的な症状のひとつです。もし、今のもの忘れが、以前よりも悪化していると感じている場合には、認知症のサインが隠れている可能性があります。

ここからは、認知症の初期にあらわれやすい症状を紹介していきます。

「すぐ忘れる」ことに加えて以下のような変化がみられる場合には、認知症の可能性を視野に入れ、専門医への相談を検討してみてください。

認知症の初期症状

意欲の低下

認知症というと、「もの忘れが増える(記憶障害)」「場所や時間などがわからなくなる(見当識障害)」といったイメージがあるかもしれません。しかし、意外なことに認知症の最初期にあらわれるのが「意欲の低下」だといわれています。

疲労やストレスでやる気が出ないというのは誰にでもあることですが、これまで「大切にしてきたこと」「生きがいにしてきたこと」にまで関心がなくなってしまうような場合には注意が必要です。

たとえば、「毎週欠かさず行っていたゴルフにまったく行かなくなった」「子供の頃から好きな囲碁をまったくしなくなった」といった変化が見られるときは、認知症のサインの可能性があります。

判断力の低下

私たちは、普段生活している中で、「判断」することを非常に多く繰り返しています。たとえば、「複数の用事やタスクの中から、優先順位をつけて行動する」「予定に合わせてスケジュールを調整する」といったことは、すべて判断力を必要とする行為です。

こうした意思決定は、脳の高度な機能によって支えられています。そのため、疲労やストレスがたまっているときは一時的に判断力が鈍ることもありますが、身体は元気なのにものごとが決められない、判断がつかないといった状態が続く場合は注意が必要です。

慣れた道に迷うことが増える

認知症の初期症状では、場所がわからなくなる見当識障害があらわれることがあります。

もちろん、地理感覚や方向感覚には個人差があります。しかし、日頃から使い慣れていた道で迷ってしまうような場合は要注意です。

たとえば、「日常使いのスーパーまでの通路で迷って帰れなくなった」「通勤途中で方向がわからなくなり遅刻した」など、これまで問題なく使っていたルートで混乱するようになった場合、単なるもの忘れではない可能性があります。

感情がコントロールできない

感情のコントロールがうまくできなくなるのも、認知症の初期症状のひとつといわれています。

認知症の初期では、脳の高次元の機能から障害されやすく、なかでも感情のコントロールは極めて高度な脳機能のひとつです。認知症によってその機能が損なわれると、怒りっぽくなる・衝動的な行動が増えるなどの変化がみられます。

たとえば、「穏やかな人だったのに、店員の対応に不満を感じて怒鳴りつけた」「真面目な人なのに、理由なく仕事を抜け出した」というような、感情を抑えられない行動がたびたび生じている場合には注意が必要です。

もちろん、疲労や過度なストレスでも同じような変化が起きる場合がありますが、こうした状態が長く続く場合には、認知症のサインが隠れている可能性があります。

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もの忘れの範囲が広くなった

「すぐ忘れる」というもの忘れは、誰にでも起こりうる身近な現象です。しかし、ものごとの一部分だけでなく、できごと全体を丸ごと忘れてしまうようなことが増えてきた場合は、認知症のサインかもしれません。

たとえば、「夏祭りでかき氷を食べた」ときに、「何味のかき氷だったかは思い出せないけれど、夏祭りでかき氷を食べたことは覚えている」という場合は問題ありません。一方で、「そもそも夏祭りに行ったこと自体を覚えていない」となると、記憶の抜け落ち方が大きく、注意が必要です。

このような、ものごとの一部分ではなく、全体を忘れてしまうのが認知症における記憶障害の典型的な特徴です。こういったことが頻繁に起きている場合や、家族や周囲の人に指摘される場合は、早めに医療機関で相談することをおすすめします。

認知症の早期発見のためにできること

認知症に限らず、いかなる病気でも「早期発見・早期対応」が基本です。

なかでも認知症は、自分でも気づきにくく、発見が遅れやすい病気だといわれています。実際、「なんとなく様子がおかしい」と感じてから専門機関を受診して正式に診断されるまで、平均4年ほどかかっているという調査結果もあります。

このように診断が遅れる背景には、「症状が軽いうちは本人も家族も認知症だと判断しづらい」という事情があります。そのため、どれだけ些細な変化であっても、「もしかして認知症かも?」と思ったらすぐに行動に移すことが認知症の早期発見につながります。

「認知症と診断されるのが怖い」「今は受診するほどではない」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。ですが、問題がなければ安心につながりますし、もし認知症であった場合は早期発見につながり、適切な治療やサポートを受けるきっかけにもなります。

ここからは、認知症の早期発見のために私たちにできることを紹介していきます。

認知機能をチェックする

「すぐ忘れる」もの忘れが増えている場合、脳の認知機能の検査や、チェックツールを利用するのもひとつの方法です。脳の認知機能検査やチェックツールでは、認知症の詳細な検査をすることはできませんが、今の認知機能の状態を測ることができます。

気軽に実施できるセルフチェックツールは、変化に早く気づくための手がかりになります。オンラインや電話で受けられるものも増えており、気になるときにすぐ試せるのが利点です。

なお、認知機能は心身の状態に左右されやすいため、良好な結果でも定期的に確認することが大切です。気になる結果が出た場合には、早めに専門機関へ相談しましょう。

もの忘れ外来を受診する

「もの忘れが増えてきたけれど、本当に受診が必要なのか迷っている」といったときに、おすすめなのが「もの忘れ外来」です。

もの忘れ外来では、今のもの忘れが年齢による自然な変化なのか、認知症やほかの病気によるものなのかを、精密な検査をおこなうことで総合的に評価します。診断がついていない段階でも受けられるため、「少し気になる」「早めに調べておきたい」といった場合にも適しています。

神経内科・精神科・心療内科、老年内科・老年精神科、脳神経外科などで受けられるほか、認知症に特化した「認知症センター」などでも相談できます。これらの医療機関では、必要に応じた検査体制が整っており、専門知識をもった医師が在籍しています。

『認知症と向き合う365』を活用する

「今は大丈夫だけど、将来が不安」という方には、認知症対策のオールインワンサービスである『認知症と向き合う365』がおすすめです。

『認知症と向き合う365』では、オンラインや電話で受けられる認知機能チェックに加えて、MRI画像をAIで解析して脳の海馬の状態を可視化する「BrainSuiteⓇ」を提供しています。このサービスにより、認知症のリスクをさまざまな面からチェックできるのが魅力です。また、医師や心理士の専門スタッフに直接相談できるのも安心のポイントです。

不安を感じたそのときから、気軽に始められる認知症対策としてぜひ取り入れてみてください。

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まとめ

今回の記事では、「すぐ忘れる」もの忘れの原因や、認知症の不安を感じたときにできる対応について紹介してきました。

私たちは日々の暮らしの中で、無意識のうちに多くのことを記憶しています。記憶は思っているよりも非常に繊細で複雑なもので、忙しさやストレス・気分の落ち込みなどが重なると、一時的にもの忘れが増えるのは決してめずらしいことではありません。

むしろ、「忘れてはいけない」と過度に気にしすぎることでかえってストレスが増え、記憶力に悪影響を及ぼしてしまうこともあります。とはいえ、「何かおかしいかも」と感じながらも、根拠のない自信に頼って見過ごすのも危険です。

不安を感じたときには、できるだけ早く行動に移すことが大切です。早期に異常に気づき対処することで、将来の安心にもつながります。まずは小さな一歩からでもかまいません。自分や大切な人


【参考文献(書籍)】

  • 秋下雅弘(2023). 目で見てわかる認知症の予防. 成美堂出版.
  • 朝田隆(2023). 認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること. アスコム.
  • 旭俊臣(2022). 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症. 幻冬舎.
  • 長尾和宏(2023). コロナと認知症~進行を止めるために今日からできること~. ブックマン.

この記事の監修者

佐藤俊彦 医師

佐藤俊彦 医師

福島県立医科大学卒業。日本医科大学付属第一病院、獨協医科大学病院、鷲谷病院での勤務を経て、1997年に「宇都宮セントラルクリニック」を開院。
最新の医療機器やAIをいち早く取り入れ、「画像診断」によるがんの超早期発見に注力、2003年には、栃木県内初のPET装置を導入し、県内初の会員制のメディカル倶楽部を創設。
新たに 2023年春には東京世田谷でも同様の画像診断センター「セントラルクリニック世田谷」を開院。
著書に『ステージ4でもあきらめない 代謝と栄養でがんに挑む』(幻冬舎)『一生病気にならない 免疫力のスイッチ』(PHP研究所)など多数。