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認知症が健康寿命に与える影響とは?健康寿命を伸ばすためにできることを解説

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近年、「健康寿命」という言葉を耳にする機会が増えています。

日本では長寿化が進んでおり、多くの方が80歳を超えて長生きされています。しかしその一方で、健康寿命は平均寿命より約9~12年ほど短く、その差が課題として注目されています。

誰しも、歳を重ねても自分らしく、いきいきと生活したいと願うものです。できる限り人の手を借りず、自立した生活を送り続けたいと考える方も多いのではないでしょうか。そのために、健康寿命をどのように延ばすかは、すべての人にとって重要なテーマです。

今回は、健康寿命を縮める要因のひとつである「認知症」に着目し、認知症が健康寿命に与える影響や、対策としてできることについて解説していきます。

健康寿命とは?

健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことを指します。令和4年(2020年)の調査によると、日本人の健康寿命は男性で72.57歳、女性で75.45歳とされています。

一方で、平均寿命は「0歳における平均余命」のことで、同じ調査では男性が81.05歳、女性が87.09歳とされています。健康寿命とのあいだには、男性では約9年、女性では約12年の差があります。この差は、「多くの人が亡くなる前の約10年間を、介護や支援が必要な不自由な状態で過ごしている」ことを意味しています。

この差は年々縮小傾向にあるものの、10年という期間は決して短くありません。長寿化が進む現代において、一人ひとりが生活の質(QOL)を維持し、自分らしく健やかに生活するためには、できる限り健康寿命を延ばすことが大きな課題といえます。

認知症とは?

認知症とは、脳の病気や障害・トラブルによって認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす状態の総称です。その原因となる疾患は200種類もあるとされています。

代表的なものには、アルツハイマー型認知症・血管性認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症などがあります。なかでも、最も多いとされているのはアルツハイマー型認知症で、全体の約半数を占めるといわれています。

認知症は、判断力・思考力・言語能力などの認知機能が徐々に低下していくことから始まり、症状の進行にともなって身体機能にも影響が現れてくることが特徴です。また、多くの認知症は進行性の病気であり、現代の医学では根本的な治療法は確立されていません。

認知症になる最大の要因は「老齢化」です。そのため、高齢になるほど認知症の発症率が高まり、75歳を超えると5歳ごとに有病率が倍増するといわれています。特に、85歳を過ぎると有病率が半数近くにまで高まります。

健康寿命と認知症の関係

認知症の多くは進行性の病気ですが、個人差はあるものの進行速度は比較的ゆるやかであることが特徴です。そのため、認知症になったからといって、すぐに健康寿命が終わるというわけではありません。

認知症の初期段階では、認知機能に障害が現れることが多く見られます。この段階では、仕事や車の運転、家計の管理など、複雑な判断力や計算力・言語能力を要する行動が難しくなるケースが見られます。とはいえ、着替えや簡単な家事・入浴といった基本的な日常動作は一人でこなせることも多く、周囲の理解とサポートがあれば自立した生活を続けることも難しくありません。

しかし、認知症が進行するにつれて、食事・着替え・入浴といった生活の基本動作にも支障がでるようになります。こうした状態になると、自立した生活が難しくなり、健康寿命が尽きたと見なされることが多い傾向にあります。 そのため、認知症を予防すること、認知症の発症をできるだけ遅らせることは、健康寿命を延ばすうえで欠かせない取り組みといえるでしょう。

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認知症は健康寿命を縮める

認知症は、健康寿命を縮める要因のひとつとされています。個人差はありますが、認知症と診断されてから約3~4年程度で中等度から重度の段階に症状が進行していきます。この段階では、着替え・入浴・歯磨きといった日常の基本動作にも他者からの介助が必要な状態となり、日常生活に大きな制限が生じるケースも少なくありません。

一般的に健康寿命は加齢とともに短くなる傾向がありますが、認知症の場合は、実年齢ではなく「認知症を発症した年齢」が健康寿命に反映されます。たとえば、65歳で認知症と診断された場合、おおよそ70歳になる前には、症状の進行により自立した生活が難しくなり、実質的に健康寿命が終わりを迎えている可能性があります。

認知症は要介護の主な原因のひとつ

認知症は、介護が必要となった原因の第3位に挙げられています。

しかし、認知症は中等度・重度まで症状が進行しないと「目に見えてわかりやすい変化」が現れにくいため、介護において認知症の当事者と介護者の両者に難しいところが多くあります。

初期の段階では、認知機能に障害が現れていても身体的には元気なことが多いため、周囲は支援の必要性に気づきにくい一方で、本人は「何に困っているのかをうまく伝えられない」ともどかしさをおぼえることがあります。その結果、当事者と介護者のあいだにギャップが生まれることも少なくありません。

そのため、認知症の介護は、初期のうちは生活の見守りや環境を整えることなど、身体的な介助よりも精神的なサポートが中心となります。しかし、症状が進行するにつれて、衣類の着脱・入浴・歯磨きといった基本的な生活動作にも介助が必要となるようになります。

やがて、歩行や座位を保つことも難しくなり、多くの場合で寝たきりになります。さらに、高度に認知機能が障害され、話の内容を理解することや意味のある言葉を話すことができなくなるケースも少なくありません。この頃には生活のほとんどの場面で介助が必要となるケースが多く見られます。

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認知症の早期発見が重要な理由

ここまで、認知症が健康寿命にどのように影響を与えるかについて紹介してきました。

ここからは、健康寿命を延ばすうえで、なぜ認知症の早期発見が重要なのかという点について解説していきます。

現時点では、認知症を根本的に治す方法は確立されていません。そのため、認知症を発見するタイミングによって、その後の本人の生活の質(QOL)や対応に大きな違いが生まれます。

では、早期に認知症を見つけることで、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。今回は3つのポイントに分けて解説していきます。

進行を遅らせることができる

認知症は完治のための治療が確立されていない病気ですが、早期に発見して薬の服用や生活習慣の改善をすることにより、進行を遅らせることに期待できます。特に、認知機能がある程度保たれている段階で対処すれば、その状態を長く維持できる可能性が高まります。

この認知機能を維持できた時間は、そのまま健康寿命を延ばせた時間でもあります。そのため、本人にとっても家族にとっても大きな意味をもつ時間になります。認知症とともに、自分らしくよりよく暮らしていくためにも、早期の気づきと対応が欠かせません。

家族や周囲の負担を軽減できる

認知症であることが早い段階で明らかになれば、適切な対応方法を検討できるため家族や介護者の精神的・身体的負担を和らげることができます。

原因がわからないまま対応に追われるよりも、「認知症である」と理解したうえで向き合ったほうが対応の方針が立てやすく、安心感も生まれます。家族にとっても、本人にとっても、認知症の早期発見はその後の生活を支える大きな助けになります。

介護や相続など将来設計が立てやすくなる

認知症を初期段階で発見できれば、今後の生活や介護について余裕をもって準備を進めることができます。本人や家族と話し合う時間を確保しながら、福祉サービスの活用や、介護に必要な用具・設備の導入なども計画的に検討することができます。

また、財産の整理や相続・行政手続きといった将来的な準備についても、本人の判断力が保たれているうちに対応できるため、後々のトラブルや混乱を未然に防ぐことにつながります。認知症と診断されたあとも、できるだけ快適に生活ができるように早めに準備することが重要です。

認知症患者が健康寿命を伸ばすためにできること

認知症にならないことが理想ではありますが、現実には誰にでも認知症を発症する可能性があり、発症を完全に防ぐことはできません。また、個人差はあるものの、認知症の発症後の平均余命はおよそ5〜12年とされており、認知症とともに生きる時間は決して短くはありません。

だからこそ、認知症と診断されたあとも、できる限り自分らしく、前向きに暮らしていくことが大切です。ここでは、認知症を抱えながらも健康寿命をできるだけ延ばすための4つの方法を紹介します。

定期的な診療

認知症は、外見では変化がわかりにくい病気です。本人が自分の状態を正確に伝えることが難しい一方で、周囲も異変に気づきにくいため、医師による定期的な診療がポイントとなります。専門家による診察を通じて早期に変化を見つけ、適切な対応につなげることが大切です。

また、認知症の方は、周囲からは些細に思えることでも、過度なストレスや苦痛に感じられることが多くなります。悪夢を見る、寝つきが悪くなる、下痢が続くなど、体調や様子に少しでも気になる変化があれば、早めに医師に相談することをおすすめします。

日常生活の自立支援

認知症と診断されたからといって、すべてのことを周囲が手助けする必要はありません。本人ができることまで取り上げてしまうと、自立の機会を奪い、かえって症状の進行を早めてしまうことがあります。日常生活をできる範囲で本人の力で続けられるよう、適切なサポートを心がけることが大切です。

たとえば、毎日の日記を習慣にして翌日に内容を一緒に確認することで記憶を補ったり、薬の服用や歯磨き・シャワーなどの習慣的な行動にアラームを活用したりするなど、本人の生活の自立を支える工夫が効果的です。

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引きこもらずに外出する

認知症が進行すると、自動車や自転車の運転が難しくなったり、道順を覚えることが困難になったりするため、どうしても外出の機会が減りがちになります。しかし、外出を控える生活が続くと、心身に悪影響を及ぼすだけではなく、認知症の進行を早める可能性があります。

そのため、無理のない範囲で外に出る機会をもつことが大切です。たとえば、家族や近所の方と一緒に散歩をしたり、庭の手入れをしたりするなど、体への負担が少ない活動から始めるのがおすすめです。

また、まだ症状が軽いうちであれば、安全に配慮すれば以前から親しんでいたスポーツなども継続することが可能です。エクササイズなど軽い運動を取り入れたプログラムを実施しているデイサービスなどもありますので、本人の意欲があればそうしたサービスの利用も検討してみるとよいでしょう。

社会とのつながりをもつ

認知症になると、これまでの自分とは違う状態が多く現れるため、本人が人との交流を避けるようになり、家族も周囲との接触に不安を感じることが少なくありません。しかし、交流の機会が限られてしまうと、脳への刺激が不足して認知機能の低下や症状の進行につながるおそれがあります。また、本人の気持ちも塞ぎ込みやすくなるため、意識的に交流の機会を増やすことが望ましいとされています。

たとえば、認知症の当事者やその家族の交流を目的とした「認知症カフェ」など、認知症の当事者が安心して話せる場があります。また、症状が軽いうちから利用できるデイサービスのなかには、趣味活動や軽い運動を通じて人とのつながりを促すプログラムを提供しているところもありますので、そうしたサービスの利用を検討するのもおすすめです。

ただし、交流を増やす際には、本人にとって負担となるような場や、ストレスになる人との接触を無理に勧めることは避けましょう。心身の負担にならないよう配慮しながら、安心して参加できる交流の場を選ぶことが大切です。

認知症に関するよくある質問

認知症が一気に進む原因はなんですか?

認知症は、一般的に時間をかけて少しずつ進行する病気です。しかし、生活習慣の変化や強いストレスなどが引き金となって、短期間で認知機能が急激に低下するケースもあります。

特に、長年連れ添ったパートナーや大切なペットとの死別など、強い精神的ショックは認知症の進行を早める要因となることがあります。認知症における身体的な変化は比較的ゆるやかですが、認知機能に関しては、このような強い心理的影響によって急激に低下するケースがあるため注意が必要です。

また、認知症の方は精神的なストレスに対して敏感になりやすい傾向があるため、些細なことでも大きな影響を受けやすいとされています。こうした特性を理解したうえで、日頃から安心して過ごせる環境を整えることが大切です。

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認知症になったらすぐに介護が必要ですか?

認知症と診断されたからといって、すぐに介護が必要になるとは限りません。介護が必要になる時期や支援の程度には、大きな個人差があります。

認知症は、まず認知機能に障害が現れることが多いですが、影響を受ける機能やその程度は人によって異なり、それにともなう生活への支障もさまざまです。多くの場合、計算や車の運転、複雑な判断などの高度な機能から障害が現れ始めるため、周囲からの理解やサポートがあれば自活することが可能です。

一般的には、診断からおよそ3~4年ほどで中等度・重度へと進行し、その頃から本格的に介護が必要になるケースが多いとされています。ただし、生活スタイルや本人の性格、身体の健康状況などによって必要になるサポートの内容やタイミングは異なるため、どのような支援が必要かを把握し、適切に対応していくことが大切です。

認知症は遺伝しますか?

多くの病気と同じように、認知症にもなりやすさに関わる遺伝的要因は存在しています。しかし、認知症の発症リスクは、生活習慣によって大きく左右されることがわかっています。たとえ遺伝的に認知症になりやすい体質であっても、それだけで必ずしも認知症になるわけではありません。

家族に認知症の方がいる場合でも、日々の健康的な生活習慣を維持することで発症リスクを下げることが可能です。遺伝を理由に過度に心配したり、失望したりする必要はありません。認知症を遠ざけるための取り組みを積み重ねていくことで、将来の安心につながります。

まとめ

今回は、健康寿命を大きく縮める要因のひとつである認知症が、どのように影響を及ぼすのかについて解説しました。

かつては、手の打ちようがない病気と考えられていた認知症ですが、近年の研究により、進行を遅らせることが期待できる薬や、発症リスクを抑えるための有効な対策が次々と明らかになっています。

認知症リスクを抑えるためには、できるだけ早いうちから生活習慣を見直し、心身の健康を維持できるように環境を整えることが大切です。誰しも身体が不調だと、精神面にも大きく影響を及ぼすものです。明るく前向きに過ごせるように生活を整えることが、認知症対策の第一歩となります。

さらに、自分の脳の健康状態を定期的にチェックしておくことも重要です。一般的な健康診断では脳を検査する項目が含まれていないことが多く、その状態を確認する機会はあまり多くありません。

定期的に脳の状態を確認するのであれば、『認知症と向き合う365』がおすすめです。『認知症と向き合う365』は、自宅からオンラインや電話で手軽に受けられる認知機能チェックと、AIがMRI画像を解析して、脳の容量や状態を詳細にチェックする「BrainSuiteⓇ」がセットになった認知症対策のオールインワンサービスです。「BrainSuiteⓇ」は、脳ドックのオプションとしても採用されている、近年注目の先進的な検査技術です。

また、月払い・年払いから選べるサブスクリプション型のサービスなので、負担が少なく、始めやすく続けやすいのもおすすめのポイントです。

これからも日々の生活をできるだけ明るく、よりよく生きていくために、将来の健康寿命を延ばす一歩として今からできる取り組みから始めてみませんか。


【参考文献(ウェブサイト)】

【参考文献(書籍)】

  • 秋下雅弘(2023). 目で見てわかる認知症の予防. 成美堂出版.
  • 朝田隆(2023). 認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること. アスコム.
  • 朝田隆・森進(2023). 認知症を止める「脳ドック」を活かした対策. 三笠書房.
  • 旭俊臣(2022). 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症. 幻冬舎.
  • 長尾和宏(2023). コロナと認知症~進行を止めるために今日からできること~. ブックマン社.
  • クリスティーン・ボーデン / 桧垣陽子(2003). 私は誰になっていくの?――アルツハイマー病者からみた世界. クリエイツかもがわ.

この記事の監修者

佐藤俊彦 医師

佐藤俊彦 医師

福島県立医科大学卒業。日本医科大学付属第一病院、獨協医科大学病院、鷲谷病院での勤務を経て、1997年に「宇都宮セントラルクリニック」を開院。
最新の医療機器やAIをいち早く取り入れ、「画像診断」によるがんの超早期発見に注力、2003年には、栃木県内初のPET装置を導入し、県内初の会員制のメディカル倶楽部を創設。
新たに 2023年春には東京世田谷でも同様の画像診断センター「セントラルクリニック世田谷」を開院。
著書に『ステージ4でもあきらめない 代謝と栄養でがんに挑む』(幻冬舎)『一生病気にならない 免疫力のスイッチ』(PHP研究所)など多数。