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認知症分類のFASTとは?ステージごとの症状や早期発見を期待できる方法を解説

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画像素材:PIXTA

高齢化が進む現代社会において、認知症は誰にとっても身近で無視できない病気となりました。

認知症の多くは進行性であるため、早期に発見して適切な対応をとることが重要です。こうした認知症の進行を客観的に把握するために活用されているのが、認知症の進行度を評価する「FAST(Functional Assessment Staging)」というスケールです。

FASTは、日常生活における動作の変化をもとに認知症の段階を7段階に分類し、症状の状態を客観的に把握するための指標として活用されています。

今回は、代表的な認知症の種類を紹介するとともに、FASTのステージ分類ごとの症状や、早期発見につながる方法について解説していきます。

認知症とは

「認知症」は特定の病名ではありません。「脳の障害や脳疾患により認知機能が低下し、その結果として日常生活に支障が生じている状態」の総称です。

認知症の代表的なものとしては、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などの進行性の神経変性疾患によるものや、脳血管障害によって引き起こされる脳血管性認知症などがあり、現時点では完治が難しい病気が多く含まれています。

一方で、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫のように、治療によって回復や改善の期待できる「治る認知症」も存在します。このような違いを理解することが、適切な対応への第一歩になります。

認知症ともの忘れの違い

年齢を重ねると、「最近、もの忘れが増えてきた」と感じる方も多いのではないでしょうか。しかし、加齢によるもの忘れと認知症によって引き起こされる記憶障害には、明確な違いがあります。

まず、加齢によるもの忘れは、自分がもの忘れをしている自覚があり、きっかけがあれば思い出せるのが特徴です。たとえば、「鍵を置いた場所を一時的に思い出せなかったが、玄関で見つけて思い出した」といったケースです。こうした忘れ方は、誰にでも起こりうる老化の一部と考えられています。

一方で、認知症による記憶障害は、自分が忘れていること自体に気づけないことが多いのが特徴です。また、忘れる範囲も広く、「今日の出来事」などの短期的な記憶からはじまり、症状の進行にともなって「結婚した日」や「子どもの名前」といった長期的な記憶にも影響が及びます。

さらに認知症が進行すると、記憶だけではなく動作や技能にも障害があらわれてきます。たとえば、「自転車の乗り方がわからなくなる」「箸の使い方を忘れる」など、これまで無意識におこなえていた動作にも支障をきたすようになります。こうした影響が積み重なることで、本人にできることが徐々に減っていき、さまざまな場面で介護が必要になるようになります。

このように、「もの忘れ」と「認知症」は表面的には似ていても、その本質には大きな違いがあります。

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認知症の種類

ここからは、代表的な4つの認知症について紹介していきます。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、認知症のなかでもっとも多くみられるタイプであり、全体の約60~70%を占めています。

アルツハイマー型認知症では、「アミロイドβ」や「タウたんぱく」といった異常なたんぱく質が脳の神経細胞に過剰に蓄積されます。その結果、神経細胞や神経細胞同士をつなぐシナプスに機能障害が生じることで、記憶力や判断力・言語能力などの認知機能の低下や脳の萎縮を引き起こし、徐々に進行していきます。進行速度は緩やかで、初期は些細なもの忘れから始まりますが、徐々に日常生活全般に影響が及び、最終的には寝たきりの状態になることもあります。

アルツハイマー型認知症は、おもに高齢者に多くみられる病気ですが、65歳未満で発症する「若年性アルツハイマー」も存在します。働き盛りの年齢で発症するケースが多く、本人や家族への影響は非常に大きなものとなります。

脳血管性認知症

脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因となって発症するタイプの認知症です。認知症全体の約20%を占めており、アルツハイマー型認知症に次いで2番目に多いタイプとされています。

脳血管性認知症のおもな原因は脳梗塞で、脳の血管が詰まる・破れるといった傷害により、脳の一部が障害されることで認知機能が低下します。障害を受けた部位により症状のあらわれ方はさまざまで、記憶障害に加え、対象に適切に注意を向けられない注意障害や、歩行障害などの運動障害をともなうことがあります。

また、脳血管障害は50代頃から増加傾向にあり、それにともない脳血管性認知症も増加します。そのため、老齢化が原因のひとつであるアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症と比べて、比較的若い世代でも起きやすいのが特徴です。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、「レビー小体」と呼ばれる異常なたんぱく質が脳の神経細胞に蓄積することで発症する認知症です。

レビー小体が蓄積すると、脳の神経細胞が傷害・死滅し、神経ネットワークに異常が生じます。その結果、記憶障害や認知機能の低下に加え、立ちくらみなどの自律神経の異常もあらわれます。また、レビー小体型認知症にみられる特徴として、実際には存在しないものが見える「幻視」や、物が歪んで見える「錯視・変形視」などの「視覚認知障害」があります。

このレビー小体はパーキンソン病の原因物質としても知られており、レビー小体型認知症とパーキンソン病は共通する部分が多いため、一連の病気としてとらえられることがあります。実際、レビー小体型認知症では手足のふるえや筋肉のこわばりなど、パーキンソン病に類似した運動症状があらわれることもあります。

前頭側頭型認知症(FTD)

前頭側頭型認知症(FTD : Frontotemporal Dementia)は、前頭葉および側頭葉にタウたんぱくといった異常なたんぱく質が蓄積し、神経細胞がダメージを受けることで発症する認知症です。

このタイプの認知症では脳の前頭葉と側頭葉に異変が生じるため、一般的な認知症のイメージであるもの忘れや記憶障害よりも、性格や行動・感情のコントロールの変化といった「人格の変化」が目立つのが特徴です。

前頭葉は、「理性」「計画性」「社会的ルールの理解」「意欲」といった、いわば「人間らしさ」をつかさどる領域です。そのため、前頭側頭型認知症では以下のような変化がみられ、周囲が「まるで別人のようになった」と感じることも少なくありません。

  • 衝動的な行動をとるようになる
  • 社会的に不適切な言動を繰り返す
  • 以前より感情の起伏が激しくなり、以前より怒りっぽくなった
  • 気分がころころと変わるようになった
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認知症ステージ分類のFAST(FunctionalAssessmentStaging)とは

ここまで紹介してきたとおり、認知症にはアルツハイマー型や脳血管性・レビー小体型など、いくつかの種類があります。これらの認知症はそれぞれ進行の仕方に違いがありますが、特にアルツハイマー型認知症では、症状が緩やかに進行しながら、徐々に日常生活に影響を及ぼすのが特徴です。

こうしたアルツハイマー型認知症の進行度や重症度を評価するために用いられているのが「FAST(Functional Assessment Staging)」というスケールです。

アルツハイマー型認知症が進行すると、記憶力や判断力だけではなく、日常生活に必要な動作(ADL:Activities of Daily Living)にも支障が出てきます。たとえば、食事や着替え、トイレなどの日常的な動作にもサポートが必要になり、最終的には自力で生活を送ることが困難になります。

FASTスケールは、このような日常生活動作のレベルをもとに、認知症の進行を7段階で分類しています。記憶力や判断力の変化に加えて、着替えや食事・排泄といった生活の基本動作にどの程度の支援が必要かという観点から、認知症の重症度を判断していきます。

このFASTを活用することで、本人の状態や必要な支援の内容を、家族や医療・介護の関係者が共通の基準で確認できるようになり、適切なケアや対応につなげやすくなります。その結果、より適切なタイミングで必要な支援をおこなうことや、進行度に応じた支援・生活環境の整備が可能になり、認知症の進行に応じたケアの質の向上にもつながります。

ここでは、FASTの7つのステージごとにおける症状について、具体的に解説していきます。

FASTのステージごとの症状

ステージ1(FAST1)|認知機能に障害のない「正常」段階

FASTスケールのステージ1では、ご本人の自覚としても、周囲の観察としても、もの忘れや判断力の低下などの兆候はみられません。年齢相応の健常な認知機能が保たれており、日常生活にも支障はなく臨床的にも「正常」と診断されます。

ステージ2(FAST2)|非常に軽度な認知機能の低下が見られる「年齢相応」段階

FASTスケールのステージ2は、臨床的には「年齢相応」と判断されるレベルであり、病的な異常とはみなされません。しかし、以下のようなごく軽度の変化が見られることがあります。

  • 鍵や財布など、物の置き場所を思い出せない
  • よく知っている言葉や人の名前がすぐに出てこない(換語困難)

以上のような変化は、加齢による自然ものとして本人も周囲も「よくあること」と受け止めがちですが、定期的に認知機能チェックを続けることで、早期に変化を発見できる可能性があります。

ステージ3(FAST3)|軽度の認知機能低下が見られる「境界状態」段階

FASTスケールのステージ3では、軽度の認知機能低下がみられ、「軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)」と診断されることもあります。

この段階では、以下のような変化がみられるようになります。

  • 熟練や注意力を要する業務でミスが増え、同僚などから指摘を受ける
  • 新しい場所への旅行や複雑なスケジュールの管理が困難になる
  • 本人が記憶力や判断力に違和感を覚えるが、日常生活はある程度保たれる

この段階で適切なサポートにつなげることができれば、FAST2相当まで認知機能が回復する可能性もあるため、早期発見と継続的なフォローアップが重要なフェーズだといえます。

ステージ4(FAST4)|中等度の認知機能低下が見られる「軽度のアルツハイマー型認知症」段階

FASTスケールのステージ4では、中等度の認知機能低下が認められ、臨床的にも軽度のアルツハイマー型認知症と診断される段階です。

特に、計画性や段取りが求められる日常生活の動作に支障が出てくるようになり、以下のような変化がみられます。

  • 家計の管理が難しくなる
  • 買い物の計画や実行が完遂できなくなる
  • 夕食に友人を招くなど、複数の行動を組み合わせた準備が困難になる

これらの変化により、日常生活のなかで要するさまざまな行動を一人で完結させることが難しくなり、周囲による適切なサポートやケアが必要となってきます。

ステージ5(FAST5)|やや高度の認知機能低下が見られる「中等度のアルツハイマー型認知症」段階

FASTスケールのステージ5では、やや高度な認知機能低下がみられ、臨床的には「中等度のアルツハイマー型認知症」と診断される段階です。

この段階では、日常生活のなかで以下のような変化があらわれます。

  • 適切な服装を選ぶことが難しくなり、着替えに介助が必要になる
  • 入浴を嫌がることが増え、説得やサポートが必要になる

日常的な身支度や生活動作に対する支援が不可欠となり、介護が必要になる時期といえます。

ステージ6(FAST6)|高度の認知機能低下が見られる「やや高度のアルツハイマー型認知症」段階

FASTスケールのステージ6では、高度な認知機能の低下が認められ、臨床的には「やや高度のアルツハイマー型認知症」と診断される段階です。

この段階では、以下のような生活上の困難がみられるようになります。

  • 入浴時の全面的な介助が必要になる
  • トイレの操作(水を流すなど)が自力でできなくなる
  • 尿失禁や便失禁などの排泄コントロールに障害が見られる

日常生活の自立度がさらに低下し、日常生活の多くに介護が必要となる段階です。

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ステージ7(FAST7)|非常に高度の認知機能低下が見られる「高度のアルツハイマー型認知症」段階

FASTスケールのステージ7は、非常に高度の認知機能の低下が認められ、臨床的には「高度のアルツハイマー型認知症」と診断される段階です。

この段階では、以下のような深刻な症状があらわれます。

  • 言語機能の著しい低下により、理解できる語彙がほぼ一語のみとなる
  • 歩行や着座などの基本的な身体機能が失われ、寝たきりの状態になる
  • 表情や感情表現が乏しくなり、コミュニケーションが困難になる

寝たきりの状態になってしまうため、ほぼすべての生活動作で全面的な介護が必要となり、周囲の負担も大きくなる段階です。

認知症の早期発見・早期対応のためのポイント

認知症の多くは進行性であり、現代医学では一度病変が生じた脳を元の正常な状態に完全に回復させることは困難とされています。しかし近年、認知機能の低下を抑制する効果が期待できる薬が開発されたことで、早期発見の重要性がこれまで以上に高まっています。

特に、FAST2(非常に軽度な認知機能の低下が見られる「年齢相応」段階)~FAST3(軽度の認知機能低下が見られる「境界状態」段階)の段階で異変に気づけば、早期に介入することで進行を遅らせることに期待できます。

また、症状があらわれる前のFAST1(正常)の段階から生活習慣を整えることも、将来の発症リスクを下げるために重要です。

ここでは、認知症の早期発見・早期対応のためのポイントをお伝えします。

ちょっとした違和感を見逃さない

FAST2~FAST3の段階では、認知機能の低下が「うつ状態」や「疲労・ストレス」と誤解されやすく、見過ごされてしまうことも多いです。実際に、FAST4以降に進行してから初めて専門機関を受診し、認知症と診断されたというケースも多くみられます。

こうした初期症状は加齢による自然な変化と区別がつきにくいため、自分や家族が「いつもと違う」と感じた変化を見逃さず、なるべく早い段階で医師に相談することが非常に重要です。

認知機能検査を活用する

MMSE(Mini-Mental State Examination)などの認知機能検査を医療機関で受けることで、信頼性の高い評価が可能になります。また、最近ではオンラインや電話で受けられる簡易的なチェックツールも増えており、自宅で気軽に試すことができます。

簡単な検査でも自分の変化に気づくきっかけとなるため、定期的に受けることが大切です。

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画像検査で脳の変化をとらえる

認知症の診断にはMRI検査が広く用いられており、脳の構造や萎縮の程度を詳細に把握することができます。近年では、AIによるMRI画像の解析も進み、微細な変化の検出も可能になっています。

そのほか、CT検査では脳出血や脳梗塞の有無を確認できるため、血管性認知症などの鑑別に有用です。また、SPECTやPETといった機能画像検査では、脳の血流や代謝、アミロイドβの蓄積状況などを視覚的に捉えることができ、アルツハイマー型認知症の早期発見に役立つとされています。

こうした検査を比較的若いうちから定期的に受けておくことで、自分の脳の状態を記録し、将来の変化をより早く正確に把握できる可能性が高まります。

まとめ

今回は、認知症の種類とともにFASTのステージごとの症状や早期発見を期待できる方法などについて解説してきました。

認知症は進行性の病気であり、早期発見と適切なケアが症状の進行を遅らせる鍵となります。そして、早期発見のためには、自分や家族のちょっとした変化を見逃さないことが非常に重要です。

『認知症と向き合う365』は、認知症の早期発見をサポートする、認知症対策のオールインワンサービスです。オンラインや電話で受けられる認知機能チェックや、MRI画像をAIで分析し、同年代との平均値と比較して現在の脳の状態をより詳しく確認できる「BrainSuiteⓇ」を含めた、脳の変化を見つけるための検査メニューをご用意しています。

あわせて、医師や心理士・看護師の専門スタッフに直接相談できるフォローアップメニューをご用意しています。フォローアップメニューでは、認知症や脳の健康にかかわる皆様のご不安やご心配に寄り添いサポートいたします。

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【参考文献(ウェブサイト)】

【参考文献(書籍)】

  • 秋下雅弘(2023).目で見てわかる認知症の予防.成美堂出版.
  • 朝田隆/森進(2023).認知症を止める「脳ドック」を活かした対策.三笠書房.
  • 旭俊臣(2022).早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症.幻冬舎.

この記事の監修者

佐藤俊彦 医師

佐藤俊彦 医師

福島県立医科大学卒業。日本医科大学付属第一病院、獨協医科大学病院、鷲谷病院での勤務を経て、1997年に「宇都宮セントラルクリニック」を開院。
最新の医療機器やAIをいち早く取り入れ、「画像診断」によるがんの超早期発見に注力、2003年には、栃木県内初のPET装置を導入し、県内初の会員制のメディカル倶楽部を創設。
新たに 2023年春には東京世田谷でも同様の画像診断センター「セントラルクリニック世田谷」を開院。
著書に『ステージ4でもあきらめない 代謝と栄養でがんに挑む』(幻冬舎)『一生病気にならない 免疫力のスイッチ』(PHP研究所)など多数。