認知症の進行速度は?一気に進む原因や進行の遅らせを期待できる方法について解説


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認知症は進行性の疾患であり、多くの方が「どのくらいの速度で進行するのか」「突然悪化することはあるのか」といった疑問を抱えています。認知症の進行速度は個人差が大きく、認知症の種類やさまざまな要因によって左右されます。
今回は、認知症の進行パターンや急激に進行する原因を解説するとともに、進行を遅らせることに期待できる方法について紹介していきます。
認知症の進行速度は早い?
「認知症」は固有の病名ではなく、「認知機能が損なわれる症状」の総称です。認知症の多くは進行性の病気ですが、基本的にはゆるやかに進行するケースが多いのが特徴です。
認知症の進行速度は、認知症の種類や個人の身体状況、生活環境などによって大きく異なります。また、同じ種類の認知症でも、発症年齢や併存疾患の有無などにより進行速度に差が生じます。
認知症の種類
ここでは、代表的な四つの認知症(いわゆる四大認知症)を紹介します。
アルツハイマー型認知症
認知症と診断された人のうち、約70%がアルツハイマー型認知症だとされています。そのため、認知症といえばアルツハイマー型認知症をイメージする方も多いのではないでしょうか。
アルツハイマー型認知症は、「アミロイドβ」と言われるたんぱく質が、脳に必要以上にたまることで引き起こされると言われています。アミロイドβは、脳の神経細胞でつくられるたんぱく質で、脳の情報伝達のために欠かせないものです。しかし、加齢や生活習慣の影響で、その処理能力が低下すると、脳の神経細胞周辺にアミロイドβが過剰に蓄積します。その結果、脳のシミのような「老人斑」としてあちこちに溜まり、周囲の神経細胞に機能障害を引き起こします。このアミロイドβの蓄積は認知症発症の10~20年前からはじまり、早い人では40代頃から蓄積が始まっている場合もあります。
さらに、アミロイドβの蓄積による老人斑が増えることで、「タウたんぱく」にも異常が生じます。タウたんぱくは、本来、神経細胞の構造を保つ役割を担っていますが、異常化すると線維状に固まり、やがて神経細胞を死滅させる「神経原繊維変化」を引き起こします。これにより神経細胞が次々と死滅して脳の萎縮が進行し、やがてアルツハイマー型認知症のさまざまな症状が見られるようになっていくのです。
血管性認知症
血管性認知症は、アルツハイマー型認知症に次いで多い認知症で、認知症と診断された人のうち、約20%を占めます。
血管性認知症は、脳出血や脳梗塞などの脳血管障害が原因となる進行性の認知症です。なかでも、特に多いのが細い血管に障害が出る「小血管病性認知症」で、血管性認知症のほぼ半数を占めます。
脳血管障害は高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病と、喫煙・肥満などのリスク因子が多いほど発症しやすくなります。これらは、いずれも働き盛りの頃に多く見られる病気や生活習慣であるため、50代頃から脳血管障害が多くなり、結果的に血管性認知症も50代頃から増加する傾向にあります。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳の神経細胞に「レビー小体」という異常構造物が出現することで起こる認知症で、認知症と診断された人のうちの約4%程度を占めます。
レビー小体とは、脳の神経細胞内にできる異常なたんぱく質の塊で、その主要な構成物は「αシヌクレイン」と呼ばれるたんぱく質です。このαシヌクレインは、本来は神経細胞のなかで重要な役割を担っていますが、異常に蓄積すると神経細胞に対して毒性を持つようになります。そのため、レビー小体が脳内に蓄積していくと神経細胞が徐々に死滅し、神経ネットワークが損傷を受けることで認知機能障害や自律神経障害などのさまざまな症状が現れるようになります。
レビー小体型認知症に見られる特徴として、存在しない人物や動物などが見える「幻視」や、物が歪んで見える視覚障害が見られます。こうした症状から目の病気と誤解されて眼科を受診することもありますが、これらは実際の「眼の病気」によるものではなく、レビー小体型認知症によって引き起こされる「視覚認知障害」です。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、前頭葉と側頭葉を中心に神経細胞が萎縮して起こる進行性の認知症です。認知症と診断された人のうち、約1%が前頭側頭型認知症だとされています。他の認知症と比べて、40代~60代と比較的若い世代での発症率が高いのが特徴です。
前頭側頭型認知症も、アルツハイマー型認知症と同様に前頭葉と側頭葉に異常なたんぱく質の蓄積が認められますが、原因や蓄積するたんぱく質の種類が複数あり、現時点で明確な発症メカニズムは解明されていません。
前頭葉は「人格・社会性・判断力・言語」などを、側頭葉は「記憶・聴覚・言語理解」をつかさどる領域です。そのため、このふたつに障害が起こることで、高度な判断や思慮ができにくくなり、結果的に性格が変わったような変化が起こります。一般的な認知症のイメージとは異なり、前頭側頭型認知症の場合、記憶障害があまり見られないのが特徴です。

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認知症タイプ別の平均的な進行速度
アルツハイマー型認知症の進行速度
アルツハイマー型認知症の進行速度は、基本的にはゆるやかで、発症から5~10年ほどかけて症状がゆっくりと進行していきます。
アルツハイマー型認知症というと、「徘徊が増える」「家族の顔や名前がわからなくなる」といったイメージがあるかもしれませんが、アルツハイマー型認知症になったからといって、すぐにそのような症状が出るわけではありません。もの忘れが増えるなどの初期症状をはじめに症状はゆるやかに進行していき、結果的に、日常生活に支障をきたす症状が見られるようになることがあります。
脳血管性認知症の進行速度
脳血管性認知症の進行速度には波があるとされています。「まだら認知症」とも呼ばれる、もの忘れが多くても判断力はしっかりしている、同じ動作でも出来る日と出来ない日があるなど、症状の現れ方にゆらぎがあります。これらの症状のゆらぎは、脳梗塞や脳出血で障害が発生しているところが、脳の中でも限局的であることから起こると考えられています。
また、脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が再発するたびに、急激に症状の進行速度が高まる傾向があります。治療で脳血管障害の再発を防止できれば、進行速度が急激に早まる危険性の低減に期待できます。
レビー小体型認知症の進行速度
レビー小体型認知症もアルツハイマー型認知症同様に、進行性の病気ではあるものの、進行速度にある程度の波があります。症状は、軽快と悪化を繰り返しながら徐々に進行していきます。アルツハイマー型認知症と同じように、初期は進行速度自体もゆるやかですが、中等度以降では進行が早くなる傾向があります。
前頭側頭型認知症の進行速度
前頭側頭型認知症の進行速度は、他の認知症と比べて比較的早い傾向があります。しかし個人差が大きく、環境やその人の持病の状態などで異なります。
認知症の症状が進む要因
認知症の進行速度は人によって大きく異なりますが、日常の生活習慣や環境に左右されることがわかっています。進行を早める要因を知り、適切に対処することで症状の進行を遅らせることに期待できます。
身体活動・生活習慣による要因
体を動かすことが少ないと、脳に血液が十分に流れなくなり、脳の神経細胞への刺激も減ってしまいます。特に、脳梗塞や脳出血が原因となる血管性認知症では、運動不足が血管の老化を進め、脳の血管に障害が起きやすくなることで症状が急に悪化することがあります。
また、短時間の睡眠が慢性的に続くと、アルツハイマー型認知症の原因物質とされているアミロイドβが蓄積しやすくなると言われています。一方で、睡眠時間が長過ぎても、日中の活動量が減って認知症のリスクが高くなる恐れがあります。
食事の面では、偏った食べ方や食べ過ぎは糖尿病・高血圧・コレステロールの異常などの生活習慣病の原因となり、脳の健康に悪影響を与えることがあります。DHAやビタミンB群の不足も、認知機能に影響すると考えられています。
心理・社会的要因
慢性的なストレスにさらされると、体内で分泌されるストレスホルモン(コルチゾール)の影響により、記憶をつかさどる脳の海馬が萎縮する可能性があると報告されています。さらに、強いストレスによって生活習慣が乱れ、過食や飲酒・喫煙が増えると、脳機能の低下を招きやすくなります。長期的には、うつ症状を引き起こし、それにともない認知機能の低下が目立つ場合もあります。
また、社会的な孤立も深刻な問題です。人との交流が減ることで、脳が外部から受ける刺激が著しく少なくなり、「思考」や「判断」といった認知機能を使う機会が失われていきます。会話や社会的な活動には、言語理解・記憶・注意力・感情の調整など、複数の認知機能が関与しており、これらが減ることで認知機能の低下が進みやすくなります。

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医学的要因
基礎疾患の管理は、認知症の進行を抑えるうえで極めて重要です。たとえば、糖尿病によって血糖コントロールの不十分な状態が続くと、脳への血流や代謝に悪影響を及ぼすことが知られています。
また、高血圧は血管に慢性的な負担をかけ、脳血管障害を引き起こすリスクを高めます。甲状腺機能の異常も、認知機能の低下と関連があるとされており、いずれの疾患も適切に治療・管理しない場合、認知症の症状が進行しやすくなる可能性があります。
さらに、高齢者に多くみられる多剤併用(ポリファーマシー)の問題も見逃せません。複数の薬剤を併用することで薬の相互作用や副作用が生じやすくなり、特に、中枢神経に作用する薬剤を長期間服用している場合は、記憶力や注意力といった認知機能に悪影響を与えることがあります。
複合的に作用するリスク要因
認知症の進行には、特定の原因が単独で影響するのではなく、複数の要因が相互に関連しながら悪循環を形成することが多くあります。
たとえば、「身体を動かさない」→「体力が低下する」→「外出や活動を避けるようになる」→「社会的な交流が減る」→「気分が落ち込む」→「認知機能がさらに低下する」といった連鎖反応が典型的な例です。
このように、身体的・心理的・社会的・医学的な要素が複雑に絡み合いながら、認知機能の衰えを加速させていくことが、臨床現場でも確認されています。
認知症の症状の進行を遅らせる効果が期待できる方法
認知症の進行を遅らせるためには、その背景にあるさまざまな要因に対して、包括的かつ継続的な対策を講じることが重要です。ここでは、効果が期待されるおもな取り組みをご紹介します。
身体活動・生活習慣の改善
定期的な運動の習慣化が推奨されます。
ウォーキングやプールでの歩行などを週3回以上、1回あたり30分程度おこなうことで、脳への血流が促進され、神経細胞の活性化につながります。 また、庭の手入れや掃除・料理といった日常的な活動も、複数の身体機能や判断力を同時に使う点で認知機能の刺激になります。特に料理は、同時進行で複数の作業をこなす必要があるため、前頭葉を中心に脳の広範な領域が活性化されると考えられています。
また、質の良い睡眠の確保も認知機能維持には欠かせません。理想的な睡眠時間は5〜7時間とされ、就寝・起床時間を一定に保つことが大切です。寝室を暗く静かに整え、就寝前のスマートフォンやテレビの使用を控えるなどの工夫によって、アルツハイマー型認知症の原因物質と言われているアミロイドβの脳内蓄積を抑える効果が期待されます。
食事の内容にも注意が必要です。DHAやEPAを豊富に含む青魚、ビタミンB群を多く含む緑黄色野菜、抗酸化作用のあるブルーベリーなどを積極的に取り入れることで、脳の健康維持をサポートします。反対に、過剰な塩分や糖分の摂取は、生活習慣病のリスクを高めて認知機能にも悪影響を与える可能性があるため、適度な制限が求められます。

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心理・社会的環境の充実
ストレスの軽減も、認知機能低下の予防において非常に重要です。深呼吸・軽いストレッチ・音楽鑑賞・趣味の時間などを取り入れ、日常的にリラックスできる環境を整えることが重要です。過度な飲酒や過食は避け、必要に応じて専門家に相談することも有効です。
同時に、社会とのつながりを保つことは、脳への複合的な刺激を与える上で非常に効果的です。家族や友人との会話に加え、地域のサークル活動やボランティア、趣味の教室への参加など、他者との交流の場をもつことが推奨されます。さらに、本や新聞を読む、絵や字を書く、ゲームやパズルをおこなう、といった知的活動も、神経ネットワークの維持・再構築に寄与するとされています。
医学的な管理の徹底
医学的な側面では、慢性疾患の適切な管理が欠かせません。高血圧・糖尿病・脂質異常症などは、いずれも認知症のリスク因子として知られており、定期的な検査と医師の指導に基づいた治療が必要です。
また、多剤併用(ポリファーマシー)による薬剤性認知機能障害のリスクもあるため、服薬内容については定期的に医師や薬剤師と確認し、不要な薬は整理していくことが望まれます。
継続的な取り組みが鍵
これらの対策は、どれかひとつをおこなえばよいというものではなく、複数を組み合わせ、無理なく継続することが効果を高める鍵となります。 自身の生活スタイルや性格に合った方法を見つけ、楽しみながら取り組むことで認知機能の維持にポジティブな成果を期待できます。
まとめ
今回は、認知症の種類と進行速度、そして進行速度に影響を与えると考えられている要因や日常生活の中で取り組める対策について解説してきました。
多くの認知症は、時間をかけてゆるやかに進行していく傾向があります。早期発見から適切なサポートや生活環境の見直しにつなげることで、進行速度の低下や、症状の改善を期待することができます。
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今後、長寿化が進んでいくにあたり、認知症を意識して生活することはQOL(生活の質)を高めるうえでも大切な一歩です。『認知症と向き合う365』を使って、自分らしいペースで、認知症の対策を始めてみませんか。
【参考文献(ウェブサイト)】
- 厚生労働省(2023). 健康づくりのための睡眠ガイド 2023. [オンライン]. 2025年6月24日アクセス,
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf - 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(2024). あたまとからだを元気にするMCIハンドブック. [オンライン]. 2025年6月24日アクセス,
https://www.mhlw.go.jp/content/001272358.pdf
【参考文献(書籍)】
- 秋下雅弘(2023). 目で見てわかる認知症の予防. 成美堂出版.
- 旭俊臣(2022). 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症. 幻冬舎.
- 浦上克哉(2021). 科学的に正しい認知症予防講義. 翔泳社.
- 森勇磨(2023). 認知症は予防が9割. マガジンハウス.
この記事の監修者

佐藤俊彦 医師
福島県立医科大学卒業。日本医科大学付属第一病院、獨協医科大学病院、鷲谷病院での勤務を経て、1997年に「宇都宮セントラルクリニック」を開院。
最新の医療機器やAIをいち早く取り入れ、「画像診断」によるがんの超早期発見に注力、2003年には、栃木県内初のPET装置を導入し、県内初の会員制のメディカル倶楽部を創設。
新たに 2023年春には東京世田谷でも同様の画像診断センター「セントラルクリニック世田谷」を開院。
著書に『ステージ4でもあきらめない 代謝と栄養でがんに挑む』(幻冬舎)『一生病気にならない 免疫力のスイッチ』(PHP研究所)など多数。