認知症の早期発見のメリットと認知症リスクの低減について解説

目次 [閉じる]

画像素材:PIXTA
現代医学では、認知症は一度発症すると回復が難しい病気だと言われています。
認知症は、加齢による緩やかな認知機能の低下と異なり、認知機能が段階的に失われていく進行性の病です。そのため、認知症の発症後、その症状を大きく改善することは難しいとされています。
しかし、発症前に食生活の見直しや認知機能を維持・強化するトレーニングなどの対策をおこなうことで、発症を遅らせたり、症状の進行を抑えたりできる可能性があることがわかってきています。
ただし、症状や進行を抑えるためには、認知症発症前の時点で自身の認知症リスクを早期に発見することがとても重要です。
今回は、認知症予防における認知症リスクの早期発見のメリットと、認知症リスク低減について解説するとともに、今日から始められる身近な認知症対策を紹介していきます。
早期発見が認知症予防のカギ
実際に認知症になった方の多くは、認知症と診断される10~20年前から、認知症を引き起こす神経細胞の病理的変化が始まっているとされています。
たとえば、60代半ばで認知症を発症した場合、その20年ほど前、つまり40代頃から病理的変化が始まっている可能性があります。この病理的変化が始まる前の段階で、あるいは始まってすぐの段階で、認知症発症のリスクを把握し、そのリスクを低減する取り組みに速やかにつなげることが認知症予防のカギです。
認知症リスクを早期発見するメリット
認知症予防におけるいちばんの目標は、認知症を「発症させないこと」です。そのためには、認知症発症の前段階で認知症リスクを早期発見し、認知機能を維持・強化するトレーニングや、食生活の見直し、運動習慣の確立などの改善につながる取り組みを始めることが重要です。そして、これらを複合的に組み合わせることによって、より効果的な認知症予防の効果が期待できると考えられています。
さらに、このような発症リスクを低減する取り組みによって、認知症の「発症を遅らせる」効果も期待されています。発症時期を数年単位で遅らせることができれば、その分だけ「自分らしく過ごせる時間」を延ばすことにつながります。
このように、認知症リスクの早期発見は、単なる予防対策にとどまらず、人生全体の質(QOL)を高めるための第一歩でもあり、他にも多くのメリットがあります。
在宅期間を延ばすことができる
認知症になると、生活のさまざまな場面で他者からの介護を必要とすることが多くなり、自宅での生活が難しくなることがあります。
しかし、認知症リスクを早期発見し、そのリスクを低減させるための適切な対策を講じて発症を遅らせることができれば、その分自立した生活を続けられる期間が延びるため、住み慣れた我が家で生活できる時間も延ばすことができます。
介護の計画や準備に余裕をもてる
認知症の症状がまだあまり進行していない段階で、認知症発症リスクを早期に発見することができれば、ご本人とご家族が将来について話し合う時間や、必要な準備を進める時間を十分に確保することができます。その結果、介護の計画や環境づくりに余裕をもって取り組むことができます。
認知症になりやすい人の特徴
認知症の最大の要因は「加齢」ではありますが、それに加えて、これまでの生活習慣が「認知症のリスクの高さ」に影響することがわかっています。
同じ年齢でも、介護を受けている人もいれば自活できている人もいます。その違いは、長年にわたって続けてきた生活習慣による影響かもしれません。
以下に当てはまる人は、そうでない人に比べて認知症のリスクが高くなるとされていますので、注意が必要です。
糖尿病などの生活習慣病をもっている
生活習慣病と認知症には深い関係があることがわかっています。生活習慣病をもつ人は、もたない人に比べて認知症のリスクが高くなることが報告されています。
特に、糖尿病の人はアルツハイマー型認知症を発症するリスクが高いことが、国内外の研究からも明らかになっています。血糖値が正常な人と比較して、糖尿病患者はアルツハイマー型認知症の発症リスクが約2.1倍まで高まるとされています。
耳が聞こえにくい(難聴)
難聴は、認知症リスクを高める最も大きな要因だと言われています。中年を過ぎてから難聴になり適切な対応をしなかった人は、適切な対応をした人に比べて1.9倍も認知症になりやすい、という報告があるほどです。
難聴のためにコミュニケーションの機会が減ることで、孤独やうつなどの他の認知症リスクを高める危険性も上がります。
老眼や白内障などで目が見えづらい
人が得る情報の約8割は視覚から得ています。老眼や白内障などによる視力の低下を放置していると、視覚から脳へと伝達する情報が減ることによって脳の働きが低下し、脳の萎縮につながると言われています。
また、目の見えづらさによりテレビを見る時間や新聞・本などを読む機会が減ると、脳への刺激が少なくなり、より認知症リスクが高まる危険性があります。
長年にわたる喫煙習慣がある
喫煙は、認知症リスクを高める要因のひとつです。タバコを吸っている期間が長いほど、アルツハイマー型認知症や血管性認知症のリスクが高まることが九州大学の研究から報告されています。
喫煙を続けている人は、非喫煙者に比べてアルツハイマー型認知症の発症リスクが約2.7倍、血管性認知症では約2.9倍にまで高まると言われています。
加えて、喫煙がリスクを高めるとされる脳卒中の発症や再発の後には、認知症を発症しやすくなることもわかっています。
大量のアルコールを長期的に摂取している
多量の飲酒は脳の萎縮を招き、認知症のリスクを高めることがわかっています。たとえば、週に276g以上のアルコール(500ml缶ビール換算で約10本分)を摂取すると、認知症発症のリスクが高くなることが報告されています。
社会的な関わり合いが少ない
社会的な関係の乏しさは認知症リスクの要因になります。未婚の人や、家族・友人などとの交流が少ない人は、そうでない人に比べてより認知症リスクが高まる傾向があります。

画像素材:PIXTA
認知症の2つの初期症状
認知症の初期段階においては、「本人に病識がない」「だんだん重症化する」という特徴があります。最近もの忘れが増えた、ということであれば、加齢によるもの忘れの可能性もありますが、当人が「もの忘れをしていることに自覚がなく」、もの忘れの頻度が「だんだんと増えている」場合、認知症の初期症状の可能性があります。
認知症リスクを早期発見するためにできること
認知症検査を受ける
「もしかして認知症かも…?」と不安を感じたときは、できるだけ早く認知症検査を受けることをおすすめします。早期からの認知症対策で、症状の改善に期待できます。
通常は、精神科や脳神経内科・神経科・脳神経外科での受診になりますが、認知症を専門に扱う医療機関も増えてきています。 かかりつけ医がいる場合は、認知症の不安について相談し、専門の医院を紹介してもらうのがおすすめです。
地域包括支援センターを活用する
地域包括支援センターは高齢者やその家族が利用できる総合相談窓口で、65歳以上の方であれば誰でも無料で利用できます。
認知症の不安についての相談に加えて、多くのセンターでは医療機関の案内もおこなっています。 一般的に、自治体が定める日常生活圏(おおむね中学校区)ごとに設置されていますので、利用の際はお住まいの自治体の窓口にお問い合わせください。

画像素材:PIXTA
認知症リスクの低減を期待できる方法
身体活動を増やす
運動習慣がある人は、ない人に比べて認知症リスクが低くなることがわかっています。
特に、中強度以上の運動(息が少し弾むが会話はできる程度)だと、より高い効果が期待できます。1日30分程度のウォーキングを週3回以上の頻度で半年以上続けることがおすすめです。さらに、中強度以上のハードな運動には、認知症リスク低減への効果がさらに高まることが期待できます。慣れてきたら無理のない範囲で強度を上げてみましょう。
食生活を見直す
脳の健康維持に栄養は必須です。食事の内容だけではなく、食べるときの環境を工夫することで認知症リスクの低減が期待できます。
食生活見直しのポイントは、以下のとおりです。
- たくさんの種類の食品を意識して摂る
- オリーブオイルを主要な脂質とした「地中海食」を中心にする
- 肉類よりも魚類を多く摂る
- ナッツ・豆類、野菜、果物などの植物性食品を意識して摂る
- 減塩しょうゆ、減塩だしなどの塩分を控えた調味料を使う
- 一人で黙食せず、家族や友人とのコミュニケーションがある食事をする
これらをすべて実践するのは難しいかもしれませんが、できるところから食生活を見直し、継続して改善していくことが大切です。

画像素材:PIXTA
眼鏡を新調する
人間はほとんどの情報を視覚に依存しています。そのため、目が見えにくい状態が続くと、視覚から脳に伝わる情報量が減り、脳への刺激が少なくなってしまいます。
度が合わない眼鏡を長いこと使っていませんか?数年前の眼鏡をそのまま使っている場合は、度が合っていない可能性があります。一度眼科で検診を受けて、眼鏡を新調することをおすすめします。
補聴器を使用する
耳の聞こえにくさは、日常生活でのコミュニケーションを妨げるだけではなく、脳への刺激を減らし、認知機能の低下につながる可能性があることが指摘されています。
耳の聞こえにくさ悩んでいて補聴器を使用していない場合は、補聴器を使用することをおすすめします。補聴器は医療機器ですので、販売店を訪ねる前に耳鼻咽喉科を受診し、適切な検査と処方を受けてから訪問するようにしましょう。
口腔ケアを習慣づける
食事は脳の健康を維持するために重要ですが、食事をしっかりと摂るためには口腔環境を整えることも欠かせません。
特に、歯周病は認知症との関連が指摘されており、歯周病予防は認知症予防に直結します。また、歯でよく噛むことで脳が刺激され、認知機能に良い影響をもたらすとされています。
50歳以上の多くの人は歯周病にかかっていると言われていますが、今からでも口腔環境を整えることで歯を守ることは十分に可能です。朝昼晩の食事後に加えて、起床時と就寝前の歯磨きを習慣にすることを目指しましょう。歯間ブラシ(フロス)を合わせて使うのもおすすめです。
音楽や芸術など知的活動に取り組む
楽器の演奏や歌を歌うことなどの能動的な音楽活動や、絵を描く、物を作るといった芸術活動は、認知機能に良い影響を与えることが明らかになっています。
特に、楽器の演奏は、記憶力や注意力、手先の運動機能を同時に使うことが脳への刺激となり、認知機能改善への効果が高いとされています。
加えて、音楽活動や芸術活動により人とのコミュニケーションが生じることで、認知機能にポジティブな影響をもたらします。
他者とのコミュニケーションの機会を増やす
人との関わりは、脳の健康に大きく影響します。
情緒的なサポートを受けている人は、そうでない人と比べて認知機能が低下しにくいことや、記憶をつかさどる脳の一部である海馬の容量や認知機能が維持されることが報告されています。また、人とのふれあいによってネガティブな心理状態が軽減し、精神的な安定にもつながります。
買い物でもなんでもよいので、定期的に家から出る用事をつくることから始めるのがおすすめです。図書館や区役所などの公共施設では、地域コミュニティの支援活動をしていることも多いので、興味のある活動や分野がないか訪れてみてください。
まとめ
今回の記事では、認知症予防における認知症発症リスクの早期発見のメリットと、認知症リスク低減について詳しく解説してきました。
長寿化が進んでいる日本において、認知症は誰にとっても無関係ではいられない、身近な病気になりつつあります。ですが、認知症は決して回避できない病ではありません。
現時点では、認知症の発症後に完治させる方法こそないものの、認知症リスクの早期発見からすみやかに改善対策につなげること、認知症発症を回避することが可能になりつつあります。できるだけ早くから認知症予防をおこなうことで、認知症リスクの低減の効果を期待できますが、認知症予防を始めるのに遅過ぎるということはありません。
『認知症と向き合う365』は、認知機能のチェックや脳の状態を解析する検査メニューから、医師や心理士の専門スタッフによるフォローアップメニューまでをカバーする認知症対策のオールインワンサービスです。
『認知症と向き合う365』で、今日から認知症対策を始めてみませんか。

画像素材:PIXTA
【参考文献(ウェブサイト)】
- 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター.(2024).あたまとからだを元気にするMCIハンドブック. [オンライン].2025年6月17日アクセス,
https://www.mhlw.go.jp/content/001272358.pdf - 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター.(2021).自治体における認知症の「予防」に資する取組事例集. [オンライン].2025年6月17日アクセス,
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001324248.pdf - 日本補聴器技能者協会.(n.d.).補聴器をご利用されるみなさまへ.[オンライン].2025年6月17日アクセス,
https://www.npo-jhita.org/public/index.php
【参考文献(書籍)】
- 秋下雅弘(2023).目で見てわかる認知症の予防.成美堂出版.
- 旭俊臣(2022).早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症.幻冬舎.
- 浦上克哉(2021).科学的に正しい認知症予防講義.翔泳社.
- 森勇磨(2023).認知症は予防が9割.マガジンハウス.
この記事の監修者

佐藤俊彦 医師
福島県立医科大学卒業。日本医科大学付属第一病院、獨協医科大学病院、鷲谷病院での勤務を経て、1997年に「宇都宮セントラルクリニック」を開院。
最新の医療機器やAIをいち早く取り入れ、「画像診断」によるがんの超早期発見に注力、2003年には、栃木県内初のPET装置を導入し、県内初の会員制のメディカル倶楽部を創設。
新たに 2023年春には東京世田谷でも同様の画像診断センター「セントラルクリニック世田谷」を開院。
著書に『ステージ4でもあきらめない 代謝と栄養でがんに挑む』(幻冬舎)『一生病気にならない 免疫力のスイッチ』(PHP研究所)など多数。