脳の老化原因とは?老化によって起こる症状や改善方法について解説

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年齢を重ねると、「もう若くないな」「体力が落ちてきたな」と老化を実感する瞬間があるのではないでしょうか。老化は、誰にとって避けられない自然の流れです。筋肉や体力、さらには皮膚や髪といった外見の変化に意識を向け、アンチエイジングに取り組む方も少なくありません。
一方で、外からは見えにくい「脳の老化」については、意識が向きにくいものです。脳も確実に老化していきますが、自覚しにくいため、気づかないうちに進んでしまうことがあります。
そこで今回は、脳の老化に焦点を当て、その原因や老化によってあらわれる症状、さらに老化の進行を遅らせることが期待できる改善方法について解説します。
脳の老化とは?
脳の老化は、脳そのものの容量が減少する「萎縮」としてあらわれます。
人の脳は、生まれてからおよそ20歳前後まで成長を続け、増加の一途をたどります。しかし、そのピークを過ぎると少しずつ減少へと転じ、ゆっくりと萎縮していきます。近年の研究では、加齢による脳容量の萎縮はすでに20代から始まっていることがわかっています。
特に影響が大きいのが、大脳の前方にある「前頭葉」と側面の「側頭葉」です。これらは「灰白質」と呼ばれる神経細胞が密集した領域で、加齢による萎縮が顕著に見られることが知られています。
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大脳は、情報を統合し、判断力・理解力・思考力を担う極めて重要な部位です。この部分の萎縮が進むと、中年期以降には脳機能の衰えを「老化」として実感しやすくなるといわれています。さらに65歳前後になると、MRIなどの画像検査でも萎縮の様子が肉眼で確認できるほどに進行するケースもあります。
脳の老化原因
では、なぜ加齢によって脳は萎縮していくのでしょうか。大きな理由のひとつは、脳を構成する神経細胞の数が、年齢とともに減少していくためとされています。
かつては「神経細胞は一度失われると二度と増えない」と考えられていました。ところが近年の研究では、脳の「海馬」で新しい神経細胞が生まれていることが明らかになっています。とはいえ、脳全体で見れば、失われる細胞の方が多いため、結果的に少しずつ萎縮が進んでいきます。
具体的には、1日におよそ10万個もの神経細胞が失われているといわれています。数だけ見ると多く感じられますが、脳には約1,000億個の神経細胞が存在しており、その減少スピードは比較的ゆるやかです。たとえば30年以上かけてようやく1%減る程度で、生涯を通じても約2~3%の減少にとどまるとされています。
ただし、脳の状態には大きな個人差があります。年齢の割に萎縮が進んでいる人もいれば、そうでない人もいます。こうした差があることから、脳の萎縮は単なる加齢だけでなく、生活習慣や病気の影響も関わっていると考えられています。特に、神経変性疾患や脳血管障害などを発症すると、神経細胞の減少スピードは速まり、萎縮も顕著になります。 とはいえ、脳の萎縮そのものは自然な老化現象の一部であり、完全に防ぐことはできません。しかし、その進行を遅らせたり、影響を軽減したりすることは可能とされています。
脳の老化によって起こる主な症状
ここからは、脳の老化によって起こりやすい症状について見ていきましょう。脳の老化には個人差があり、すべての人に同じ症状が出るわけではありません。しかし、代表的な変化を知っておくことで、自分の状態に気づきやすくなります。
前述の通り、脳の萎縮は主に前頭葉や側頭葉といった大脳から始まります。これらの領域は、記憶力、言語力、判断力、計算能力など、いわゆる「認知機能」を担う重要な部位です。
そのため、この部分が萎縮すると、次のような認知機能の低下につながることがあります。
- 記憶力が低下し、新しいことを覚えるのに以前より時間がかかる
- 判断力や意思決定が必要な場面で迷いやすくなる
- これまで触れたことが無い分野を理解するのに時間がかかる
- 注意が散漫になりやすく、集中力が続かなくなる
- 意欲が湧きにくく、何をするにも面倒に感じる
こうした変化が進行し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになると、「認知症」の可能性も出てきます。脳の老化による症状を「年齢のせい」と片付けてしまわず、変化に早めに気づき、必要に応じて医療機関に相談することが大切です。

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脳の老化の抑制が期待できる方法
脳の老化を完全に食い止めることはできません。しかし、脳の萎縮を早めてしまう要因はいくつも解明されており、それらのリスクを減らすことが、脳の健康を守り、老化の進行をゆるやかにすることにつながります。 ここからは、脳の老化を抑制するために、私たちが日常生活で取り組める具体的な方法を紹介していきます。
新しいことに挑戦して脳を刺激する
脳は加齢とともに少しずつ萎縮していきますが、使い続けることで脳機能は何歳になっても機能を高められることが、さまざまな研究から明らかになっています。つまり、日常的に脳を積極的に働かせることが、脳の老化を防ぐ有効な方法のひとつです。
脳には「よく使う領域は衰えにくく、あまり使わない領域は衰えやすい」という特徴があります。そのため、普段あまり使わない脳の領域を意識的に刺激することが大切です。
具体的には、これまで経験したことのないことに挑戦するのが効果的です。たとえば、新しい趣味や活動を始める、行ったことのない場所へ旅行に出かける、普段読まないジャンルの本を手に取るなど、日常に小さな変化を加えることで脳にポジティブな刺激が生まれます。
こうした取り組みは、脳の活性化につながるだけでなく、日々の暮らしをより豊かにします。
指先を使う活動で脳を活性化
脳の領域の中でも、指の動きをつかさどる部分は特に大きな割合を占めているといわれています。そのため、指を使う動作は脳に強い刺激を与える効果があります。
具体的な活動としては、ピアノやギターなどの楽器演奏、刺繍や裁縫といった細やかな作業がおすすめです。また、チェスや将棋などのボードゲームも効果的です。指先を使うだけでなく、対戦や交流を通じたコミュニケーションの機会にもつながるため、脳の活性化に役立ちます。 新しい趣味を取り入れたり、これまで挑戦したことのない活動に取り組むことは、気持ちを前向きにし、脳の老化を抑えるうえでも良い影響を与えます。
適度な運動で脳も体も元気に
適度な運動は、脳の老化を防ぐうえで非常に効果的です。運動をおこなうと、脳内で「脳由来神経栄養因子(BDNF)」と呼ばれる、ニューロンの成長を促すタンパク質の分泌が増え、脳の萎縮を抑えることがわかっています。
さらに、筋肉から分泌される「マイオカイン」と呼ばれるホルモンも、認知機能の維持に役立つとされています。こうしたことから、運動は脳の老化を遅らせるための大切な習慣といえるでしょう。
効果的な運動の目安としては、少し汗ばむ程度の有酸素運動を、1回30分・週3回ほどおこなうことが目安です。ウォーキングやランニングなど、屋外での運動はリラックス効果もあり、続けやすい点でもおすすめです。
無理のない範囲で運動を生活に取り入れることで、脳も体も元気に保つことができます。

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栄養バランスの取れた食事を心がける
近年の研究では、食生活が脳の萎縮に大きく影響することが明らかになっています。特に、食事の多様性が乏しい人ほど脳の萎縮が進みやすく、反対に多くの種類の食品を摂る人は脳の萎縮が抑えられる傾向があると報告されています。
そのため、できるだけ多くの種類の食品をバランスよく取り入れることが、脳の老化を防ぐために重要です。毎日の食事で、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルといった幅広い栄養素を意識的に取り入れることで、脳の機能を良好に保つ効果が期待できます。 また、魚に含まれるDHA、ナッツ類に含まれるオメガ3脂肪酸などは脳の健康維持に役立つ栄養素として知られています。ただし、特定の食品に偏るのではなく、全体の食事バランスを整えたうえで適度に取り入れることが大切です。
良質な睡眠で脳をリフレッシュ
良質な睡眠は、心身の回復だけでなく脳の健康維持にも欠かせません。睡眠には脳をリフレッシュし、老化を防ぐ効果があると考えられています。
加齢に伴い脳の血流量は低下しますが、睡眠中は血流が増加することが知られています。これにより酸素の供給や老廃物の除去が活発におこなわれ、脳がしっかりとリフレッシュされることで、老化の抑制につながります。
一方で、忙しい生活の中で慢性的に睡眠不足に陥る人も少なくありません。近年では「睡眠負債」という概念が注目され、睡眠不足が積み重なることで脳や心身に悪影響を及ぼすことが明らかになっています。脳の健康を守るためには、1日6時間半〜7時間程度の睡眠を目安に、質の高い休養を確保することが大切です。
定期的な検診で感覚器を守る
目や耳といった感覚器も、脳と同じように加齢とともに徐々に機能が低下していきます。感覚器の衰えは脳への刺激の減少につながり、その結果、脳の老化を早めてしまう可能性があります。
実際に、目や耳からの情報を処理する脳の領域があり、入力が減ると脳に届く情報量も減少します。これが脳の活動低下や老化につながると考えられています。 こうしたリスクを防ぐためにも、感覚器の健康を維持することが大切です。具体的には、年に1回を目安に眼科や耳鼻科で検診を受け、早めに変化を見つけることをおすすめします。
歯周病を予防し、口腔環境を清潔に保つ
歯周病は、口内の細菌が歯の周囲組織に炎症を引き起こす病気です。進行すると歯茎や歯を支える骨が溶け、最悪の場合は歯を失うこともあります。
近年の研究では、歯周病が糖尿病やアルツハイマー病、動脈硬化といった加齢に関連する疾患とも深く関わっていることが指摘されています。これらの病気は脳の老化を早める要因となるため、歯周病予防は脳の健康維持にもつながります。
特に、免疫機能が低下し始める40代以降は歯周病リスクが高まるため、日常的なケアが欠かせません。予防の基本は、食べかすなどによってできる「歯垢」をためないことです。丁寧な歯磨きに加えて、歯間ブラシやデンタルフロスを併用することで、より効果的に歯垢を取り除くことができます。
さらに、定期的な歯科検診を受け、必要に応じて早期治療につなげることも大切です。目安は3か月に1回程度。こうした取り組みで口腔環境を清潔に保つことが、歯周病の予防だけでなく、脳の老化を防ぐことにも役立ちます。

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禁煙で脳の健康を守る
喫煙は体に悪影響を及ぼすだけでなく、脳の血管にも大きな負担をかけます。脳梗塞やくも膜下出血などの脳出血は、喫煙が間接的なリスク要因となることがあり、これらは認知機能の低下や半身不随など、重大な後遺症につながる危険な病気です。さらに、喫煙によって脳血管の老化が早まることも明らかになっており、結果的に脳の老化を加速させてしまいます。
そのため、現在喫煙している方は、少しずつ本数を減らし、最終的には禁煙を目指すことが大切です。長年の習慣でなかなかやめられない場合は、禁煙補助薬の活用や禁煙外来での専門的なサポートを受けることも効果的です。
適切な飲酒量を守って楽しむ
過度の飲酒は脳の老化を早めることが知られており、長期間にわたる多量の飲酒は認知症のリスクを高める要因にもなります。脳の健康を守るためには、適切な飲酒量を守ることが欠かせません。
一般的な目安としては、1日あたり純アルコール20g、ビール中瓶1本程度が適量とされています。これ以上の摂取は過剰となるため、控えるようにしましょう。
長期にわたり多量の飲酒習慣がある場合、自力で減らすのは難しいこともあります。そのような場合は、減酒外来(節酒外来)などの医療機関のサポートを受けることをおすすめします。
脳老化の進行を遅らせるために意識すること
早期の生活習慣改善の重要性
前述の通り、脳の老化は20代から始まっているといわれています。そのため、脳の老化を抑制するための生活習慣改善は、早すぎるということはありません。気づいたときから取り組むことが大切です。
もちろん、遅すぎるということもありません。今からでも生活習慣を見直すことで、脳の健康を維持し、老化の進行を遅らせることが期待できます。脳も体も、放置すれば徐々に衰えていくため、できることから少しずつ始めることがポイントです。
ただし、過度なストレスは脳にとって逆効果で、かえって老化を進める要因になります。「すべてを完璧にやらなければ」と自分にプレッシャーをかける必要はありません。気楽に、楽しみながらできる範囲で取り組むことが、脳の健康を守るうえで大切です。

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定期的に脳の健康状態をチェックする
脳の状態を定期的にチェックすることで、小さな変化に早く気づくことができます。実際には、脳の健康状態を調べる機会はあまり多くないため、こうした脳のチェックは非常に有意義です。
おすすめの方法のひとつが、『認知症と向き合う365』というサービスです。このサービスでは、脳の変化を継続的に観察し、気になる異変の早期発見をサポートします。
具体的には、AIが脳画像を分析する「BrainSuite®」や、認知機能チェックなど、脳の健康状態を評価できるツールが一通りセットになっています。MRI検査は全国の提携医療機関で受けられ、その他の検査やチェックはオンラインで完結するため、思い立ったときにすぐ始められる点も魅力です。
脳の老化を防ぐには、日々の生活習慣の改善に加えて、自分の脳の状態を定期的に確認し、必要に応じて治療やリハビリテーションにつなげることが重要です。
まとめ
今回は、脳の老化の原因やそこから生じる症状、さらに予防や改善につながる方法をご紹介しました。
脳の老化は20代から始まるといわれています。脳の状態が気になったときこそ、対策を始める絶好のタイミングです。具体的な方法は本文で紹介した通りですが、最も大切なのは「自分の健康を必要以上に悲観しないこと」です。過度なストレスは脳にも体にも負担となり、かえって老化を早める要因になりかねません。無理に完璧を目指さず、楽しみながら取り組むことが継続のコツです。 脳の老化を防ぐための小さな習慣を積み重ねていくことが、将来の健康につながります。まずはできることから、少しずつ始めてみましょう。
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【参考文献(ウェブサイト)】
- 福島県立医科大学広報紙(2023). いごころvol.30. [オンライン]. 2025年9月19日アクセス,
https://www.fmu.ac.jp/univ/daigaku/kouhou/vol_30.pdf
【参考文献(書籍)】
- 秋下雅弘(2023). 目で見てわかる認知症の予防. 成美堂出版.
- 朝田隆(2023). 認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること. アスコム.
- 加藤俊徳(2021). ビジュアル図解 脳のしくみがわかる本. メイツ出版.
- 北原逸美/ながさき一生(2025). 認知症の教科書増補改訂版. ニュートン.
- 長尾和宏(2023). コロナと認知症~進行を止めるために今日からできること~. ブックマン.
この記事の監修者

佐藤俊彦 医師
福島県立医科大学卒業。日本医科大学付属第一病院、獨協医科大学病院、鷲谷病院での勤務を経て、1997年に「宇都宮セントラルクリニック」を開院。
最新の医療機器やAIをいち早く取り入れ、「画像診断」によるがんの超早期発見に注力、2003年には、栃木県内初のPET装置を導入し、県内初の会員制のメディカル倶楽部を創設。
新たに 2023年春には東京世田谷でも同様の画像診断センター「セントラルクリニック世田谷」を開院。
著書に『ステージ4でもあきらめない 代謝と栄養でがんに挑む』(幻冬舎)『一生病気にならない 免疫力のスイッチ』(PHP研究所)など多数。